表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
117/166

憎悪の正体-6

 息を吐き出し、ファルシオは強い眼差しでシェリスに正対した。

「ファルシオ・ディアス・セルナディアの名において命じる。シェリス・ウィルダー、万一の場合はルクスバード使者とイエルシュテイン国王、暁姫(エイル)悠樹を守って脱出しろ。シルク・カザフリントはその知識をもって遺跡内を誘導、彼をサポートすること。これは命令だ。二人とも反論は許さん」

 命令。

 その一言にシェリスが唇を噛んで沈黙する。顔を強張らせたシルクも黙って頷き、その二人に代わって声を上げたのは悠樹だった。

「だから勝手に決めないでってば!」

 慌てる悠樹にファルシオがふわりと微笑みかける。強く抱きしめて髪にキスを落とすと、すぐに身体を離した。

「心配するな。例え命にかえても、お前たちは守ってみせる」

「馬鹿な事言わないで!命にかえてなんかほしくない。私だけが助かったって意味ないよ!」

 反射的に怒鳴り返してファルシオを睨みつけるが、男は言葉を返そうとはしない。ただ、困ったように笑うだけだ。全て自分が悪いのだと、自分の責任なのだといわんばかりの、いつもの笑みで。

 その表情に、悠樹の中の何かがキレた。

「あーもう!みんな勝手にすればいいわ。私も勝手にやらせてもらうから!・・・全員連れて神殿前に転移(テレア)しろ?はっ、冗談じゃないわ!」

 喚きながら、フィルドに言われた術を学ぶ上での大原則を思い出す。


 『術師(デフィーノ)の前で嘘だけは言っちゃダメだよ。術師も嘘を言っちゃダメ。

  術師の前で弱気なことを言っちゃダメ。術師も弱気になっちゃダメ。

  心が弱くなれば、その言葉が術で縛られて現実のものになってしまうから。

  だから、術師は成功だけを思い浮かべなければいけないんだよ。

  例えそれが、どんなに絶望的な状況だったとしてもね。・・・忘れないで。』


 フィルドの声が何度も繰り返した言葉は、そのまま悠樹の心を奮い立たせた。

「要はここから出られればいいんでしょ。悪いけど、行き先は保証できないからね。空中になるか噴水の中か、どこになるかわからないけど全員道連れにしてやる!覚悟しなさい!」

術師(フィルド)は嘘をつかない。術師(わたし)は弱気にならない。絶対できる。……だから!)

 心の中で強く言い切って、もう一度ファルシオを見上げる。

「だからファルもさっきの言葉は撤回して。絶対、全員で“帰る”って約束して!」

 かちりと目が合う。

 驚きに見開かれたファルシオの瞳を睨むように見つめて。この世界に来て、あの夜以来使ったことのなかった言葉の意味を、その想いを、わかってほしいと祈る。

 やがて、ファルシオは瞳を伏せ、口元に笑みを浮かべて悠樹を見つめ返した。

「撤回する。何があってもお前と一緒に……帰ってみせる」

 ファルシオの笑みから陰りが消える。力強く頷いてくれたその人に一瞬だけ笑みを見せてから、悠樹は胸の前で手を組んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ