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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
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憎悪の正体-5

 とんとんと軽くジャンプをして準備体操らしきものを終えたフィルドが息を吐く。

「出るよー。リジュ、あとはよろしく」

「無駄口叩いてないで、さっさと行け」

 ぐっと拳を握りしめてリジュマールが叫ぶ。荒い息をつく彼女を見つめる悠樹の耳に、パシンと何かが弾ける音が聞こえた。

 パシン、パシン。

 今度は続けて二回。

 音のしたほうに顔を向けると、黒蝶が結界に体当たりをし、そのまま散り散りに形を崩していくのが見えた。霧に戻ったそれは再び集まって同じ大きさの蝶になり、また体当たりを繰り返す。そのたびにリジュマールの身体が震え、噛んだ唇から色が失われていく。

「リジュの体力はもう長く保たない。悠樹、任せたよ」

 言い終わるなりフィルドは身を翻して結界の外へと飛び出した。白い光を破壊しようと伸ばされたエドヴァルシィンの黒い翼を、片手を振って生み出した風で消し飛ばす。

「タワティアナは女王国家だったよねぇ。おじいさん(・・・・・)?」

「はははは。この力は男のほうがより強く扱えるのでな。あの愚かな男を利用させてもらった」

「やっぱり、百年前にリジュを唆したのもあなたか。……礼をさせてもらおう。あの子の師として」

 フィルドの瞳に怒りの炎が、口元に酷薄な笑みが浮かぶ。

 エドヴァルシィンに対峙すると、彼は術言(デスペル)を詠唱しいくつもの球体を作り出した。フィルドを囲むようにふわふわと漂う直径十センチほどのそれは、それぞれが台風のように渦を巻いている。作り出した空気の塊を指先を動かすことで投げつけ、エドヴァルシィンを後退させていく。

「つまり、あなたの復讐は百年前、あの子を利用した時から始まったわけだ。不老の呪いがかけられた王子を国王は邪魔に思うはず。殺すに違いない、とでも思ったんでしょ。国王が王子を殺せばそれを理由に国を乱せる。殺さなくても呪いを理由に国王の失脚は狙える、とでも考えたんじゃない?」

 フィルドの言葉にエドヴァルシィンは答えない。ぎらりと視線を強くし、片手をあげて蝶を向かわせる。だがそれらは空気の球体の渦に取り込まれ、次々と姿を消した。

「だが陛下はそうしなかった。百年の眠りさえ甘んじて受け、あなたの望み通りセルナディアは消滅した。それなのにあなたの王国はあなたの手に戻らなかった。……だから憎しみが強くなった。違う?」

「黙れ」

「自分の息子に裏切られ国を追われたあなたにとって、国を失うことになっても息子を守ろうとした陛下が、そうして守られた王子とセルナディアが存在していることが、許せなかったんでしょう?」

「黙れ、黙れ黙れぇぇえっ!!」

 それはまるで、生み出される風よりも鋭利な言葉の刃がエドヴァルシィンに突き刺さるようだった。

 激昂した彼が両手を上げると、それに呼応するように黒い蝶が集まり一体の巨大な蝶へと姿を変えた。ざぁっと音を立ててフィルドに襲い掛かるそれは、すぐに風の刃によって散り散りにされ、球体の渦に飲まれ消えていく。

 その様子を見つめる悠樹に、シェリスの声が聞こえた。

「殿下、外へは私が―」

 振り返れば、外に出ようとしているファルシオを、シェリスが引き止めているところだった。ファルシオは苦笑して床に伸びている男を視線で指し示した。

「使者殿やアルマン殿を死なせて戦争の口実をやるわけにはいかない。俺にその男を担いで悠樹とアルマン殿を守れと言うのか?万一の場合に備えて、お前はここで待機だ」

「ですが」

「この場所はお前の武器には不向きだ。そんなでかい剣を振りまわせるほど広くないし、水龍(クレイ・カルテ)も使えない」

「この程度、懐剣のみで十分です。殿下はどうかこの場に―」

「シェリス」

 抗議を続けるシェリスを、ため息混じりのファルシオの声が遮った。

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