少年と“約束”-6
肩を叩いてみた。……起きなかった。
大声で叫んでみた。……起きなかった。
布団を剥いみた。…………それでも起きない。
(あとは誰か呼んできてベッドから蹴落とすしか……ん?)
少々危険な思考に陥りかけたところで、あ、と声を上げた。
「なんかに似てると思ったら、アレだ。大きなかぶ」
ぽつり、悠樹が呟く。それを聞きとがめて、少年がベッドサイドへと近寄ってきた。少し高い位置にある悠樹を見上げ、ことりと首を傾げる。
「何それ」
「おじいさんが、大きなかぶを抜く話」
身も蓋もない説明をして、悠樹は腰に手を当てた。
「育ちすぎてなかなか抜けないの、かぶが」
「うん?」
意図がわからず首を傾げる少年に構わずに、悠樹は少年に背を向けたまま続けた。
「で、家族が力を合わせて抜くの、かぶを。ってことで、一人では無理な事も、みんなで協力すればできるよって話なんだけど」
「でもこれは、力自慢が何人いても無駄なんだ。むしろ、君にしかできない事だ」
相変わらずな様子の少年に、一つため息をついて。悠樹はベッドに足を取られながら王子に近づいた。スカートの裾を払って傍らに膝をつくと、王子に腕を伸ばす。
「うんとこしょ、どっこいしょ。それでも王子は起きません……って、あんたはかぶか!いい加減に起きろったら起きろーっ!」
「……仮にも一国の王子を捕まえてかぶはないんじゃない?かぶは」
突如キレたように叫びながら、眠る王子の胸倉を掴んで激しく上下に揺する。乱暴な動きに合わせてがくがくと男の首が動くが、ムチウチを心配する余裕はない。
さすがに見かねたのか、ベッドに乗り上げた少年が悠樹の肩に手を置いた。
「おもしろいからしばらく見てるつもりだったんだけど、彼が不憫だからヒントあげる。こういった場面で呪いを解くっていったら、方法は一つでしょ」
ピタリ、悠樹の腕が止まった。
男から離した手を自分の耳にあてて、“聞かざる”ポーズを取ると、開放された男の頭は重力に従って再び枕に沈みこんだ。
「やめて。考えたくない」
「ってことは、わかっててやってるんだ。こんな無駄なこと。」
「……」
無駄、と言われて悠樹の視線が宙を泳ぐ。それを肯定と受け取って、少年は言葉を続けた。
「呪いを解くのは、乙女からの愛の―」
「無理ーーーっ!」
室内に悠樹の絶叫が響いた。
「初対面の相手の寝室に忍び込んでる、この状況だけでも十分犯罪なの。それなのにキ……そういうことするなんて、ただの変質者よ変質者!だ、大体、話したこともない相手に愛なんて感じるわけがないでしょう!だからできないって言ったの!無理って言ったの!お願いだからもういいにしていよ」
顔を真っ赤に染めてわたわたと言い募る悠樹に、少年はしゅん、と悲しそうな表情をした。が、すぐに頷いた。
「わかった」
え、と見上げると、少年は困ったような笑顔を浮かべている。
「無理強いはいけないって、よく言われるんだ……諦めるよ」
その言葉に、悠樹の肩から力が抜ける。ごめんね、と謝ろうとした彼女に、少年が続けた。
「それじゃ、さっきの場所に戻ろうか」