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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
102/166

石造りの部屋-3

 足音高くリジュマールに近づき、彼女の前で腰に手を当てて精一杯胸をそらす。

「利害、一致してないよ」

「そう、一致して……何?」

「一致なんかしてないって言ってるの。私はこの世界にいたいんだから」

 右手を突き出し、人差し指を彼女の顔に突きつける。

「それに、例え一致していたとしてもリジュには頼らない。私はフィルドに(・・・・・)お願いするもん」

 予想通り、フィルドの名を出すと同時にリジュマールの頬がぴくりと引きつった。それを見て少しだけ溜飲を下げると、悠樹はすっと意識を内に集中させた。

我は求める(ディス・エイ)空間の扉(ノルン・オート)

空間術言強制破棄ノルン・デスペル・レーナ・ジャ・ルーマ

 最後まで言い切る前にリジュマールの言葉がその場に響いた。同時に周囲に集まりかけていた術力が霧散する。悠樹は拳を作って怒りを押さえ込むと、もう一度最初からその言葉を紡ぎ始めた。

我は求める(ディス・エイ)空間(ノルン)―」

空間術言強制破棄ノルン・デスペル・レーナ・ジャ・ルーマ

我は求める(ディス・エイ)、―」

空間術言強制破棄ノルン・デスペル・レーナ・ジャ・ルーマ

(ディス)―」

空間術言強制破棄ノルン・デスペル・レーナ・ジャ・ルーマ

「いい加減に―」

空間(ノルン)・・・なんだ、もう諦めたのか。フィルドの弟子にしては出来が悪いな」

 彼女は、悠樹には聞き取るのが精一杯の詠唱速度で術言(デスペル)を紡ぐ。それはそのまま術師(デフィーノ)としての力量の差を表している。悠樹は術では絶対に勝てない相手を睨みつけ、リジュマールはそんな彼女を鼻先でせせら笑って見下ろした。そして、指を立てて見せる。

「一、この部屋で暮らす。二、元の世界に帰る。好きなほうを選べ」

「三、ファルのところに戻る」

 間髪入れず悠樹が第三の選択肢を提示すると、初めてリジュマールが困ったような表情を浮かべた。周囲の気配をうかがうように声を潜め、腰をかがめて囁く。

「その場しのぎの嘘でもいいから、帰ると言えないのか?」

「術師にだけは嘘をつくなって言われてるの。その嘘を術で縛って実行する気でしょう?」

「……フィルドのやつ、余計な知恵だけはつけさせているようだな」

 リジュマールが大げさにため息をつき、その背後で静かに扉が開いた。そこから髭を蓄えた壮年の男と、それに付き従う痩せた老人が姿を現す。彼らは、悠樹の敵意と興味の混ざった視線を無視してリジュマールに近づき、何事かを囁いた。その直後、リジュマールの顔色が変わる。

「お待ちください。必ず説得してみせますから」

 髭の男と悠樹の間に立ち、自分の身体で双方の視線を断って懇願するリジュマールを見ながら、悠樹がぽつりと呟く。

「説得されないもん。ファルの所に戻るんだから」

「お前は黙っていろ」

 ばさりと髪を揺らして振り返ったリジュマールに一喝され、悠樹はむっとして口を尖らせた。すぐさま言い返そうとして、次の瞬間聞こえてきた単語にその動作を止めた。

「陛下、もう少し、もう少しだけお時間をください」

(陛下?!)

 こくりと言いかけた言葉を飲み込んで、悠樹は髭の男を見上げた。


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