石造りの部屋-1
そこは窓のない、石の床と石の壁に囲まれた場所だった。壁や天井に取り付けられた明かりのおかげで十分な明度はあるものの、どこか薄暗い雰囲気が拭えない。リジュマールとの距離を空けると、悠樹はまっすぐに彼女と向き合った。
「用って何。ファルのことなら私に言ったって無駄なんだから」
「そのようだな」
ふん、とつまらなそうな表情をすると、リジュマールは扉に背を預けて腕を組んだ。
「ああ言えば自分から身を引くかと思ったのに、見かけによらず図々しい」
「図々しくて悪かったわね」
鼻息荒く言い捨てて、悠樹はふるりと身体を震わせた。今までいた自室とは異なり、この場所はシンとした冷たい空気が身体から熱を奪う。腕をさすりながら周囲を見回して、悠樹は疑問を口にした。
「ところで、ここはどこ?」
「少なくとも、お前の部屋じゃない」
「んなことわかってるっつーの」
馬鹿にしたような回答にぶつぶつと文句を言い、ぐるりと部屋を見まわす。八畳くらいだろうか。さして広くはないその部屋は、奇妙な力が満ちていた。術とは違う、何か大きな力が息を潜めているような不気味さを感じる。
石を積み上げた壁には隙間なく何かが書き連ねてあり、暗い色合いの石とで斑模様を作り出している。手を触れることも憚られるその雰囲気に圧倒されながらも、リジュマールが立つ場所とは反対側にある一つの扉に手をかけた。鍵がかかっているだろうと思っていたそれは意外にも簡単に開き、続きの部屋が現れた。そこに倒れている影を見つけて声を上げる。
「リジュ、誰か倒れてる!」
「ルクスバードの男が寝てるだけだ。朝まで目覚めないから、気にしなくていい」
「気になるに決まって……って、ルクスバード?まさかこの人!」
はっとして振り返ると、リジュマールは片頬だけを上げて笑みを浮かべた。
「そう、迎賓館にいた男だ。こいつがいなくなり、次にお前がいなくなれば、疑いはルクスバードに向く。その間に私の用は終わる」
興味なさそうに解説すると、リジュマールは腕を解いた。身体を起こし、指先だけで悠樹に近くに来いと合図する。赤い瞳に見つめられ、悠樹は無意識のうちに息を詰めて彼女へと足を進めた。