⑤①
「シュヴァルツ殿下がカーラー様に毒を盛ったんですっ!」
「…………は?」
そう叫んだ侍女はシュヴァルツを押し除けて、守るようにカーラーを抱きしめる。
カーラーも侍女に助けを求めるかのようにもたれかかっているではないか。
「今すぐに医者を呼んでくださいっ! 急いで、カーラー様っ、カーラー様!」
「お、おいっ! それはお前が……」
「こんなことをするなんて……ひどいですわ! シュヴァルツ殿下はずっとリリアン様と王妃陛下と一緒にカーラー様を冷遇して虐げていたんです! お二人がルアン様に追い詰められた腹いせにカーラー様を殺そうとするなんてっ」
侍女は泣き叫ぶようにしてシュヴァルツを責め立てる。
反論する暇もないので驚いていたが、ハッとして声を上げた。
「……ッ、ちょっと待て! ボクはしていないっ! お前がやったんだろう!?」
「カーラー様は国のためにとずっとずっと耐えていたのにぃ……! うわあぁぁっ」
シュヴァルツの言い分はすべて侍女の甲高い泣き声でかき消されていく。
息つく暇もなく、カーラーの我慢を語りシュヴァルツが犯人だと訴えかけるのだ。
(ボクは今からカーラーとの仲を修復するつもりだったのに殺すわけないだろう!? なんだ、この侍女はっ!)
そんな中、医師が現れてカーラーはベッドに寝かされていく。
シュヴァルツが追い出されると周囲から突き刺さる軽蔑の眼差し。
「ボ、ボクがやるわけない! ボクはカーラーに今までのことを謝罪しようと思っただけなんだ」
「ダルモンテ王国の王族はカーラー様にひどいことばかりっ! カーラー様がこんな目に遭うなんてあんまりだわ」
部屋の中からは侍女の泣き声が聞こえていた。
それと同時に侍女や侍従、執事たちのこちらを見る目が鋭くなっていく。
『王妃様とリリアン様と一緒だ。なんてことを……!』
『まさかこんなやり方をするなんて! バカなのか!?』
『ダルモンテ王国は終わりだわ……! 最低よっ』
シュヴァルツは耳を塞ぎたくなった。
今すぐにここから逃げ出したいが、どこかに行ってしまえば自分が犯人だと言っているようなものだろう。
(ボクじゃない! ボクがそんなことをするわけないのに、どうして信じてくれないんだ!?)
少しでも挽回しようと思い口を開こうとするが、父であるダルモンテ国王が慌ててこちらに走ってくる。
シュヴァルツは助かったと笑みを浮かべた。
「父上、ボクはっ……!」
──バキッ
痛々しい音と共に父はシュヴァルツを殴り飛ばす。
受け身も取れずに廊下に転がっていく体。
それでも父は気が済まないのか、シュヴァルツを殴り続けている。
いまいち状況がわからないまま殴られ続けていたシュヴァルツだったが、カーラーの部屋から医師が出てきたことで父の気が逸れたようだ。
父はシュヴァルツから離れると、カーラーの様子を聞いている。
どうやら一命は取り留めたようだがしばらく安静にするようにと言われたようだ。
ずるずると倒れ込むように座る父は低い声であることを告げる。
「シュヴァルツ、お前が……お前が毒を盛ったのか!?」
「いいえ! ボクじゃありません。信じてください、父上」
「調査が終わるまで、部屋から一歩も出るなっ!」
シュヴァルツは殴られた頬を押さえながらフラフラしつつ立ち上がる。
父の荒々しい怒鳴り声にシュヴァルツは肩を跳ねさせた。
カーラーの侍女が犯人であると訴えようとするものの「言い訳は聞きなくない。これ以上はしゃべるな」と、まったく話を聞いてもらえずすべて跳ね除けられてしまう。
「ダルモンテ王国は終わりだっ」と弱々しい声が聞こえた。
(父はどうしてわかってくれないんだ! どうしてこんなことにっ……!)
騎士たちに引きずられるようにして自室へと戻る。
これから自分がどうなってしまうのか考えたくはなかった。
* * *
その後、カーラーを毒殺しようとした犯人を探す調査が始まった。
とはいっても、その犯人はシュヴァルツだと決めつけられていた。
カーラーは毒で声が出なくなっており、喋れるようになるまで生殺し状態。
部屋に軟禁されていたシュヴァルツは、いつ己の運命が決まるのかがわからずに気が触れてしまいそうになっていた。
何人も何人も部屋に来て、その時の状況を説明する日々。
もちろんシュヴァルツは自分が見た状況をそのまま伝えていく。
(ボクじゃないボクじゃない……ボクが犯人なわけないじゃないか!)
縄で徐々に締め付けられるような感覚に息が浅くなっていく。
シュヴァルツがひたすら部屋の中を歩き回っていると聞こえるノックの音。
扉が開くとそこにはげっそりとして青ざめた父の姿があった。
そんな父から信じられない言葉が告げられる。
「シュヴァルツ……お前を廃嫡し、カーラーを殺害しようとした罪で斬首刑とする」
「────ッ!?」
時が止まったかのように動けなかった。
こうなることはどこかわかっていた。わかっていたけれど、僅かな望みにかけていたのだ。
シュヴァルツは死んだというサフィードとチェルヴォニの顔が思い浮かべてからゆっくりと自分の首に触れた。
手はしっとりと汗ばんでいて、肌に張り付いていた。
シュヴァルツはカサついた唇を開き、ポツリと呟くように言った。
「いやだ……」
「…………」
「──いやだいやだいやだあぁぁっ! いやだあああ」




