④⑤
彼女はいつも凛としていてフラーウムのように被害者ぶることはないが、その大きな変化に戸惑いはあった。
フラーウムの時に感じていた違和感の正体にもう少しで手が届きそうな気がしていたが……。
(どうして虐げているはずのカーラーの方が無くしていくものが多くなるんだ?)
フラーウムの時は気づかないフリをしていたが、今になりそれが疑問に浮かぶ。
それに加えてたまたま聞いた侍女たちの噂話の内容がシュヴァルツの頭を過ぎる。
『シュヴァルツ殿下は、本当に何もわかってないわよね』
『本当だわ。カーラー様もお可哀想に。あんなに優しくていい方なのに……シュヴァルツ殿下の目は節穴なんだよ』
『カーラー様のことが発端でまた争いが起こったらどうする?』
『それはないわよ。侍女一人しか連れてこないんだもの』
『私は国が平和であればいいわ。〝あの二人〟のせいで無理かもだけどね』
侍女たちはクスクスと笑いながらどこかに言ってしまった。
本当は不敬罪だと怒りたかったがそれどころではなかった。
(彼女たちは誰のことを言っているんだ? あの二人とは一体……)
シュヴァルツは首を横に捻る。
しかしいくら考えても答えにたどり着けなかった。
というよりは辿り着きたくなかっただけなのかもしれない。
そんな中、カーラーは立場を弁えて大人しくしている。
アーテルム帝国から嫁いできた女性たちのために手紙を送り寂しさを紛らわしているようだ。
シュヴァルツはサフィードの妻であるフィオーネのことを思い出していた。
(せめて彼女のように心優しく淑やかであればな。傲慢な女は身を滅ぼすに違いない。だがカーラーは…………本当に傲慢なのか?)
その日の晩、シュヴァルツは父に呼び出されることなる。
いつもシュヴァルツたちには無関心な父だが国王としての評価は高い。
アーテルム帝国との和平により平和をもたらしたからだ。
仕事ばかりしている父とは用がある時にしか話すことはない。
だからシュヴァルツが二人を守らなければと強く思うのかもしれない。
シュヴァルツは父にカーラーが半年前からリリアンを虐げていることを伝えていた。
しかしフラーウムの時もそうだったか、何度訴えかけても聞く耳を持ってはくれないのだ。
(父上は何もわかっていないんだ……!)
大体、話す内容はわかっていた。
年に一度ある王家主催のパーティーのことだろう。
執務室に入るといつもと同じで険しい顔をした父が椅子に座っていた。
やはりシュヴァルツの予想通り、王家主催のパーティーのことだった。
話が終わり、執務室を出ようとすると珍しく名前を呼ばれて振り返る。
「…………シュヴァルツ」
「何かご用でしょうか?」
父は口元で手を合わせながら、こちらをじっと見つめている。
昔からこの何もかも見透かしているような目が苦手だった。
シュヴァルツが父の言葉を待っていると……。
「お前は自分の立場をわかっていない」
「……どういう意味でしょうか?」
瞼を閉じた父は小さく首を横に振る。
「カーラーを大切にしろ。いいな?」
「は…………?」
「以上だ。下がれ」
口数が少ないのはいつものことだが、今回ばかりは納得できそうになかった。
病弱なリリアンの心配すらしたことがないくせにカーラーを大切にしろという指示には納得できそうもなかった。
それと同時にリリアンと母のシュヴァルツがいない間に父に色目を使っていたという言葉を思い出す。
(やはりカーラーは父に取り入ったのか? それなのにボクにカーラーを大切にしろだと!?)
シュヴァルツは怒りを懸命に押さえつつ部屋に戻った。
本来ならば一緒の寝室にいなければならないカーラーはいない。欲はたまる一方だった。
カーラーとは相変わらず義務的に接していたが、気丈に振る舞う彼女を見ていると本当かと疑ってしまう。
だが、そういう時は必ずリリアンがカーラーに虐げられたと言い、そんな気持ちは消えてしまうことを繰り返す。
そんな時、シュヴァルツの元に届いたのは黒色の封筒に赤い蝋封の不思議な手紙。
開くと興味をそそられる内容だったため、チェルヴォニを誘って行くことにした。
奴隷たちがたくさんいる秘密の場所で欲を発散する。
刺激的で最高の夜を過ごした。
それからシュヴァルツはパーティーまで準備に追われることになった。
だがパーティー当日、最悪なことが起こってしまう。
なんと奴隷を集めて違法な方法で資金を集めていたヴィジョン伯爵とその娘ラウラが帝国軍団長によりその場で殺害。
運び屋として下についていたガルベン男爵も連れて行かれてしまう。
シュヴァルツは大変なことをしてしまったと冷や汗が滲む。
チェルヴォニとシュヴァルツは確かにあの場所にいた。
バレてしまえばどうなってしまうのか考えたくもない。
けれどそんなシュヴァルツを追い詰めるような衝撃的なことが起こる。
アーテルム帝国の公爵で帝国軍団長であるルアンのパートナーとして隣にいる女性。
ハニーゴールドの髪に青い瞳。それはダルモンテ王国の王族しか持ちえない色だ。
そこにいたのは死んだはずの妹、フラーウムだった。
(ど、どうしてここにフラーウムがいるんだ?)




