④③
女性が使っていたであろうストールを持っていたことから、愛人に会いにいっていたのではないかと言われていた。
珍しく父も動揺していたようだ。
ベリガール公爵を信頼していたからこそだろう。
このことにショックを受けたベリガール公爵夫人は田舎で療養することにしたそうだ。
このまま社交界に出てもいい笑い者だ。公爵夫人の気持ちは理解しよう。
宰相補佐として働いていたチェルヴォニは正式に宰相として任命されることになり、引き継ぎの作業に追われていた。
もちろんシュヴァルツもチェルヴォニを手伝いながら過ごしていた。
母は体調を崩しているリリアンを励ましているようだ。
そんなある日のことシュヴァルツは信じられないことを耳にする。
「シュヴァルツお兄様、聞いてくださいませ……!」
「リリアン、体調は大丈夫なのか!?」
リリアンは寝間着のままこちらに向かって走ってくる。
その目には涙が浮かんでいるではないか。
「カーラー様ったらわたくしに暴言を吐いたのっ! 役立たずな王女って……選ばれないのも当然だと言ったのよ!?」
「なんだと?」
ついにカーラーが本性を表し始めたというのだろうか。
リリアンは両手で顔を押さえながら肩を揺らして泣いている。
咳き込むリリアンの背を撫でながらシュヴァルツは励ましていた。
リリアンは相当ショックだったのだろう。
シュヴァルツは我慢できなくなり、リリアンが落ち着いた頃に立ち上がる。
「今すぐにカーラーを罰してやる。リリアン、待っていてくれ」
「ううん、いいのよ……わたしが王族として役立たずなのは事実だもの」
「そんなこと……」
「お父様とお母様、シュヴァルツお兄様にも申し訳ないわ。それにシュヴァルツお兄様の幸せを壊したくないわ」
「…………リリアン」
「わたくしが我慢すればいいだけだから……お母様にも黙っていてね」
リリアンはシュヴァルツのために必死に耐えようとしている。
こんなにつらいのに我慢しようとしているのだ。
(カーラーめ……! リリアンを執拗に虐げるなんて)
その後もカーラーのリリアンへの嫌がらせは続いていた。
シュヴァルツがダルモンテ王国に公務から帰り、カーラーが嫁いできて二カ月が経とうとした頃だった。
カーラーとの寝室はいまだに別のままだ。
リリアンが体の調子がいいからと、久しぶりに彼女が大好きな中庭で母と共にお茶をしていた時のことだ。
カーラーを誘わなくていいのかと母が言うと、リリアンは暗い表情で俯いてしまう。
シュヴァルツは落ち込むリリアンの肩に手を置いた。
「リリアン、母上にも言うべきではないか?」
「ですが、シュヴァルツお兄様……」
シュヴァルツは母にリリアンとカーラーの関係を話していく。
「それは本当なの? まさかカーラーがリリアンにそんなことを言うなんて信じられないわ」
母は心底驚いているようだった。
口元を押さえながら震えているではないか。
そしてチラリとシュヴァルツの方を見る。
「きっとシュヴァルツがリリアンを可愛がっていることが気に入らないのね」
「え……?」
「そうよね、シュヴァルツお兄様の気を引きたいのかも……」
そう考えて、シュヴァルツがカーラーが初夜を断ったことを思い出していた。
その他にもカーラーがシュヴァルツがいない間にリリアンにつらく当たったことや「実は……」と母にも嫌味や暴言を吐かれているという事実を聞いて驚愕していた。
執事はカーラーと母やリリアンが仲睦まじそうだと報告していた。
だが蓋を開けてみるとまったく違うではないか。
シュヴァルツがどちらを信じるのか……。
もちろんリリアンと母に決まっている。
「きっと、カーラー様はこの国を乗っ取るつもりなんだわ」
リリアンの言葉にシュヴァルツは衝撃を受けていた。
「シュヴァルツお兄様の前ではいい王太子妃でいようとしているみたいだけど……ほんとはっ」
「リリアン、無理をしてはダメよ」
リリアンは両手で顔を覆ってしまう。
その唇が弧を描いていることなど、まったく見えなかったシュヴァルツは怒りに震えていた。
それからリリアンの元に駆け寄る。
彼女はずっとシュヴァルツがいない間、思い悩んでいたのだろう。
リリアンの元々小さかった体がさらにか弱く思えた。
「それにシュヴァルツお兄様に言おうかどうか迷っていたんだけど……」
「リリアン、なんでも言ってくれ!」
そう言うとリリアンは真っ赤になった目元をこすりながら、母と目を合わせて頷いた。
「あのね……わたし見てしまったの。カーラー様ったらシュヴァルツお兄様がいない間にお父様に色目を使っていたのよ」
「な、なんだと!?」
「確かにリリアンの言う通りだわ。カーラーはあなたがいない間に好き放題していたわ……あなたが帰ってきてからはまた大人しくなったけれど」
確かにカーラーの前で、いつも通りリリアンを可愛がっていたこともあった。
まさかカーラーがシュヴァルツがいない間にここまでするとは思っても見なかったのだ。




