④②
シュヴァルツは久しぶりに王城に帰り、執事からカーラーのことについて聞いていた。
彼女は二週間半の間、病弱なリリアンに贈り物をしたり、母とお茶をしたりと仲睦まじい様子だという。
(やはりフラーウムとは違うのか。カーラーは性格はいいのかもしれないな)
次の日、夫婦らしくしようとカーラーを朝食に誘った。
彼女は嬉しそうにしており、これならばいい関係を築くことができるかもしれないとシュヴァルツが思っていた時だった。
「初夜はもうしばらく待っていただけないでしょうか」
「…………は?」
「まだ心の準備が整っていないのです。申し訳ありません」
「あ、あぁ……」
「ありがとうございます。シュヴァルツ殿下」
彼女は淡々とありえないことを言い放つ。
シュヴァルツから拒絶するならまだしも、カーラーから言われることが信じられなかった。
「寝室も別室でよろしいでしょうか」
「……。構わない」
「ありがとうございます」
カーラーから淡々と紡がれるのはシュヴァルツを突き放す言葉たち。
彼女は何事もなかったように食事を再開した。
部屋も慣れるまでは別室を希望する彼女に困惑しつつも頷くしかなかった。
けれどこの件はシュヴァルツのプライドを傷付けるには十分だった。
それもカーラーと距離を縮めようとした矢先のことだから尚更だ。
そもそも初夜を向こうから断るなど常識的にありえるのだろうか。
(帝国出身だからといって、ダルモンテ王国を軽視しているのではないか!? そもそもこうなって当然だという態度が許せないっ)
わがままな彼女の申し出を一度は承諾したものの、後から襲いくる強烈な苛立ちと不快感。
(このボクを待たせるなんてどういうつもりなんだ……そもそも初夜を拒絶するなんてありえないだろう!? なんなんだよ、アイツは)
彼女もフィオーネのようにシュヴァルツに尽くしてくれるだろう、そう勝手に思っていたのに裏切られたような気分になる。
しかしこの時はカーラーが何故不自然なタイミングで初夜の話をだしたのか。
何故同室を拒絶したのか、シュヴァルツは苛立ちからまったく気づいていなかったのだ。
母とリリアンのターゲットがカーラーに移ったことや、彼女が孤立させられていたことも知らぬままだった──。
そんな中、突然リリアンがチェルヴォニと結婚したいと言い出した。
どうやらシュヴァルツが結婚したことが羨ましくなったらしい。
「シュヴァルツお兄様が羨ましいわ。わたくしも結婚したいの!」
「だがリリアン、体調は大丈夫なのか? もしリリアンになにかったら……」
「お医者様が最近は体調がよくなってきたと言っていたわ。それにチェルヴォニと結婚すればお兄様とお母様のそばにいられるでしょう?」
「……リリアンはなんて可愛らしいんだ」
「シュヴァルツお兄様が、わたしを大切にしてくれるからよ。それにチェルヴォニ様は紳士的でかっこよくて……令嬢たちの憧れの的ですもの」
確かにチェルヴォニは紳士的で顔もよくいい男である。
それはあくまでも表向きの話だ。
裏の顔を知っているシュヴァルツからすれば、可愛い妹が裏のチェルヴォニに耐えられるとは思えない。
シュヴァルツはリリアンのことを思い、もっといい令息がいるのではないかと勧めるが、彼女にとってはチェルヴォニ以上に条件がいい男は他にいないらしい。
母も大賛成だったが、ベリガール公爵もチェルヴォニもリリアンとの結婚には慎重な姿勢だ。
他の貴族もリリアンが王族だったとしても進んで娶ろうとしないのは彼女が病弱なことが主な原因だろう。
子を残すことに重きを置くからこそだ。
ベリガール公爵もそう考えているに違いない。
結果からチェルヴォニとリリアンの婚姻は成立しなかった。
やはりリリアンの体のことが心配だったのだろう。
チェルヴォニはエリュテイカという帝国出身の令嬢と結婚することになったのだ。
どうやらエリュテイカはチェルヴォニに一目惚れをしたらしい。
パーティーでチェルヴォニを運命の相手だと定めた彼女はその日のうちにチェルヴォニに婚約者がいないかを確認した後、すぐに両親と顔合わせ。
ベリガール公爵も突発的な申し出だったにもかかわらずよく断らなかったものだと意外に思っていた。
チェルヴォニとエリュテイカの結婚はとんとん拍子に決まった。
儚く可愛らしい魅力を持つリリアンとは真逆の令嬢で、派手な髪型に見たことのない奇抜で先進的なドレス。
エリュテイカは不思議と目を惹きつける魅力を持っていた。
チェルヴォニが結婚してしまったことでリリアンは落ち込んでしまった。
(リリアンももう二十歳だ。焦る気持ちも理解できるな……)
そのまま体調を崩してしまったリリアンは暫くは部屋から出てこなかった。
チェルヴォニの結婚から暫く経ったタイミングで、ベリガール公爵が亡くなったことで大パニックだった。
ベリガール公爵はどうやらアーテルム帝国から帰る途中に事故で亡くなってしまったそうだ。




