③①
だんだんとエリュテイカの奇抜な見た目が気に入らずに口を出すようになる。
自分の妻として完璧じゃなければ気が済まない。
そのことが押さえられなくなる。
チェルヴォニは次第にエリュテイカのことを見るたびに苛立っていく。
それは忙しくて大変なチェルヴォニとは違い、シュヴァルツが妻を迎えても呑気に遊び回っていることも原因だろう。
こちらは寝る間も惜しんで働いているというのに。
父がいなくなった穴は大きく、忙しさからチェルヴォニのストレスは募るばかりだ。
「チェルヴォニ様、あの今夜は……」
「──うるさいっ! 今はそれどころではないんだよ」
「も、申し訳ありません」
共に過ごす時間が増えるたびにエリュテイカに当たることも増えていく。
エリュテイカはいつもチェルヴォニを受け入れて許すのだ。
だからチェルヴォニは次第に彼女を雑に扱うようになっていく。
身近にいるエリュテイカしか苛立ちを発散させる相手はいなかったからだ。
目障りな格好をしている時には……。
「もっとまともな格好はできないのか!」
「……え?」
「そのドレスを今すぐに捨てろ。もっと品のいいものにしてくれ」
彼女の意思などもはや関係なかった。
すべてが自分の思い通りでなければ気が済まない、その思いだけだ。
「子どもっぽい髪型をやめてくれ。ベリガール公爵家に相応しくなるように整えてこい。それから自分のことをエリーと言うのはやめろ。不愉快だ」
「……!」
「髪はストレートでドレスも地味なものにしろ。肌の露出も禁止、化粧も最低限にするんだっ!」
「で、ですが……」
「私の言うことが聞けないのか!?」
「……はい、わかりましたわ」
エリュテイカの奇抜な見た目を上品で周囲から目立たないように。
高い位置に二つに結えている髪型をキッチリとまとめさせた。
言葉も淑女として正しいものに矯正していく。
地味で目立たないが、他の男に媚を売るような格好は止めさせた。
この時、彼女が誰かに言うのではないか、両親と連絡を取るのではなどとまったく考えてはいなかった。
いや、考える余裕がなかったと言うべきかもしれない。
それほどにチェルヴォニは追い詰められいたのだが、エリュテイカにぶつければ溢れそうな気持ちを少しを押さえることができる。
エリュテイカはどんどんと元気をなくしているような気がした。
だが、彼女が苦しんでいる姿を見ているとチェルヴォニの気分が晴れやかになる。
毎朝、スッキリとした気分で屋敷を出て城へと向かう。
「今日もありがとう。みんなのおかげで私は助かっているんだ」
「ベリガール公爵は本当に素晴らしい」
「ベリガール公爵がいなければダルモンテ王国は成り立ちません」
「私が頑張ることができるのは、支えがあってこそだ。まだ不安定な時期で迷惑をかけることもあると思うがよろしく頼む」
チェルヴォニがそう言うと周囲から拍手が巻き起こる。
(ふっ……当然だろう? もっと私の価値に気づくべきだ)
表向きでは素晴らしい人間を演じる。
最近ではあの父を超える人格者と言われて気分がいい。
裏では彼女をいたぶることでストレスを発散できるため問題ない。
そんなある日のこと。
手紙を届けてもらうように頼んでいるエリュテイカを見つけて目を見開いた。
もしかしてチェルヴォニに受けている扱いを誰かに暴露するつもりではないのか……そんな考えが頭に浮かんだ瞬間に彼女を止めるために動き出す。
「──ちょっと待てっ!」
「おかえりなさいませ、チェルヴォニ様……きゃっ」
エリュテイカの手首を乱暴に掴む。
突然のことで驚いたのかエリュテイカは悲鳴を上げる。
侍女や侍従たちもそれに驚いているようだ。
だが、チェルヴォニは必死だった。
自分の立場を脅かす可能性を排除したい、そう思ったからだ。
「エリュテイカ、答えろっ! 一体誰に手紙を出すつもりだ!?」
「わ、わたくしはカーラー王太子妃殿下やフィオーネ様に……」
「中身を見せろっ!」
「……やめてくださいませっ」
チェルヴォニはエリュテイカの制止も聞かずに無理やり手紙を奪い取る。
乱暴に封蝋を剥がして手紙を開いた。
文字を読んでいくと、そこにはチェルヴォニのどこがかっこいいか。
ピクニックをしてみたい、買い物をしてみたいなどと彼女の願望が書き綴られているではないか。
あまりにも馬鹿馬鹿しい内容にチェルヴォニは開いた口が塞がらない。
「恥ずかしいですわ……!」
エリュテイカは顔を真っ赤にしながら、手のひらで顔を覆っている。
我に返ったチェルヴォニはさすがに申し訳なく思い、咳払いをしてから言い訳を考える。
しかしエリュテイカの喜びそうなことを考えるのは簡単だ。
「すまない、君が誰と連絡をとっているか気になって……」
「……チェルヴォニ様が、わたくしのことを?」
「ああ、乱暴なことをしてすまない」




