②⑦
だけどシュヴァルツの言う通り、仮面をつけ続けるのは大変だ。
だが、信頼されていて損はない。
何もかもを自分の思い通りに動かすことができる。
それ以上の快楽などありはしない。
それを発散するため方法もいくらでも知っている。
父がああ振る舞っている理由も成長するたびに理解することができた。
チェルヴォニはバカな令息や令嬢たちも見下していた。
その中には王太子のシュヴァルツも含まれる。
彼とはいい関係を気づいてはいるが、シュヴァルツは気に入らない相手をよく権力で押し潰しているようだ。
だが王太子というだけでそれが罷り通ってしまう。
彼との関係は大事にしておかなければと、父にもきつく言われていた。
このダルモンテ王国で国王など飾りにすぎない。
裏でうまく操っているのはベリガール公爵家なのだから。
そのためにはうまく信頼関係を築いておかなければならない。
チェルヴォニは常に人付き合いはメリットがあるかないかで考えていた。
そんな中、アーテルム帝国との同盟が決まる。
長い争いに終止符が打たれたのだ。
今のアーテルム帝国の勢いは凄まじいものだった。
父は先手を打って、彼らと並ぶことでダルモンテ王国を守る方法を選んだ。
(クズのくせにこういうところだけ頭が回るものだな。私もそうしただろうが……)
しかしチェルヴォニは疑念を抱いていた。
何故ならアーテルム帝国にとって、ダルモンテ王国と和平を結ぶメリットなどひとつもない。
正確には食糧があるのだが、それほどまでに切迫した状況には思えなかったからだ。
(何か他に目的が……? それにしても回りくどいやり方じゃないか?)
サフィードが辺境で食い止めていなければダルモンテ王国はどうなっていたかわからない。
逆を言えば、辺境を突破してしまえばどうとでもなるということではないか。
切迫していたはずなのに、突如友好的に変わる。
この状況は疑わざるを得ないだろう。
アーテルム帝国の皇帝が変わったのは三年前。
彼は恐るべき手腕で周辺諸国を飲み込んでいった。
このタイミングでかなり内部がごたついていたそうだが、最近になりやっと落ち着きを取り戻したらしい。
だからこそダルモンテ王国もここまで平和でいられたのだ。
同盟を結ぶ際にチェルヴォニもアーテルム皇帝の顔を見たが、あまりの威圧感に冷や汗が滲んだ。
新しい皇帝はスラリと背が高く体格もいい。端正な顔立ちと読めない表情。
彼のオーラに圧倒されて目が合わせることができなかったことだけは覚えている。
(アーテルム帝国は本当にダルモンテ王国と同盟を結びたかったのだろうか? 武力で威圧した方が手っ取り早い気がするが、もしも食糧を求めているのだとしたらこのやり方は得策ではないと判断しただけか?)
チェルヴォニはそう考えていたが父も同様に危機感を抱いていたらしい。
ただ他の大臣やダルモンテ国王はやっと落ち着ける、くらいにしか思っていないのだろう。
彼らは自分が幸せならばそれでいいと思っているのだろう。
まだ完全に信頼しているわけではなかった。
アーテルム帝国からまず持ち出されたのは婚姻であった。
同盟の象徴として各国の王族が結ばれることはよくあることだ。
そこで第一皇女であるカーラーがシュヴァルツと婚姻を結んで嫁いでくることになった。
チェルヴォニとシュヴァルツは二十五歳。
カーラーは十八歳だそうだ。
(本当にダルモンテ王国と同盟を? まさか……)
ますますアーテルム皇帝の考えがわからなくなる。
シュヴァルツには婚約者がいなかったわけではない。
婚約者ができたことはあるのだがなかなか結婚相手が決まらない。
その理由はチェルヴォニにはわかっていた。
(いや……シュヴァルツが結婚できないのはあの女たちのせいか)
そんなことが何回か続いて、すっかりと婚約者になりたいという令嬢はいなくなってしまった。
シュヴァルツの婚約者を選ぶパーティーが開かれているが、王妃という地位を得る前に自分が破滅してしまうとわかっているから誰も近づかない。
何よりもシュヴァルツ本人がそのことに気づいていないことが滑稽だった。
だからこそダルモンテ王国にとって、何も知らないカーラーが嫁いできてくれたら安心というわけだ。
ダルモンテ王国もシュヴァルツの年齢を考えても、この婚姻を強く望んだに違いない。
「オレもやっと結婚することができる。ダルモンテ王国の令嬢たちは見る目がなかったんだ」
「………ははっ、そうかもしれませんね」
何も気づいていないが、国王になるのはシュヴァルツなのだ。
チェルヴォニはあえて何も言うことはなかった。
父も慌ただしく動いていて、チェルヴォニもその手伝いに追われていたが数カ月後に無事に婚姻が結ばれた。
チェルヴォニが言うのもなんだが、ダルモンテ王国の王族は腐りきっている。
シュヴァルツとリリアンを溺愛して邪魔者を容赦なく潰していく王妃。
良くも悪くもまっすぐなシュヴァルツは騙されやすい。
だが国王としては動かしやすくていいだろう。




