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(なんて汚い街なんだ……! 今から華々しい生活を歩んでいくというのに、ここで暮らしていたことが貴族たちにバレたら最悪じゃないか)
家に仕送りをしていないこともすっかり忘れてアスファルはボロボロの小屋の中へ。
「アスファルお兄ちゃん!? アスファルお兄ちゃんだ!」
「早くこっちに来てっ! フラー、フラーッ!」
「フラー、アスファルお兄ちゃんが帰ってきたよ!」
涙目でアスファルの帰宅を喜ぶ弟や妹たち。
慌ただしい足音と共にフラーがアスファルの前へ。
フラーはこちらをまっすぐに見つめたまま動かない。
その視線はアスファルを苛むように蝕んでいく。
いたたまれなくなり彼女と目を合わせることができずに顔を逸らした。
「アスファル……今までどこに行っていたの?」
「……」
「どうして連絡をくれなかったの!? みんなを置いてどこで何をしていたのよ!?」
こちらを責め立てるように金切り声が響いた。
彼女にこんな風に怒鳴られると思わずに苛立ちが込み上げる。
フラーはアスファルに掴み掛かろうとするが、彼女の手を思いきり振り払う。
「…………別に。どうでもいいだろう」
彼女はフラリと後ろによろめいた。
叩かれた手を見ながらショックを受けているようだ。
汚れた髪や肌、痩せこけた体を見て眉を寄せる。
美しく華やかな貴族の令嬢たちに見慣れていたせいか、フラーのことがその辺に転がっているゴミのように思えた。
侍女や使用人たちの方がまだ綺麗だろう。
(なんて貧乏くさい女なんだ……! 信じられない)
あんなに美しいと思っていた彼女が今のがボロ雑巾のようだ。
彼女の目からは涙がハラハラと流れていく。
「どうして……」
「……っ!」
いつも笑顔だったフラーの涙に心が揺れ動く。
追い討ちをかけるようにある真実が告げられる。
「お義母さんが……病気でっ」
「…………え?」
「それなのに、アスファルは全然帰ってこなくて……っ!」
フラーは両手で顔を覆って肩を揺らしている。
母が亡くなったことを思い出したのか弟や妹たちもフラーに寄り添うように泣いている。
どうやら母はアスファルが帰ってこなかった三カ月の間に亡くなってしまっならしい。
それなのにアスファルがどこにいるかもわからずに、生活を支えるためにフラーが朝から晩まで働いて薬代や弟や妹たちのお金を稼いだらしい。
だが、フラーへの感謝よりも母がいなくなったことに大きなショックを感じていた。
(フラーがもっとしっかりしてくれていたら、こんなことにはならなかったのに……!)
自分が帰らなかったことよりもフラーがしっかりとしていなかったせいで母は死んでしまったのだ。
当たり前のようにそう考えて怒りが湧いてくる。
「お腹空いたよ、アスファルお兄ちゃん」
「お兄ちゃん、食べものをちょうだい!」
「………!」
弟や妹たちもアスファルが帰ってきたことで、食べ物が手に入ると思っていたのだろう。
だからこそアスファルのことを歓迎していたのだ。
今のアスファルの格好は貴族そのものだ。
家族だったはずなのに外の物乞いたちと同じように感じてしまう。
見た目だけは貴族に近づけようとお金をかけたせいで何ももっていなかった。
フラーと弟や妹たちを見て、ギリギリの生活だということが理解できる。
わかってはいたがこの家にもどこにもお金はないのだろう。
アスファルは舌打ちをして彼らに背を向けた。
弟と妹たちは「お腹すいた」「お兄ちゃん、食べ物をちょうだい」とまとわりついてくる。
その辺に落ちている木の棒のような腕を見て驚くのと同時に、服が汚れてしまうと思い腕を払った。
「──触るなっ」
手を払われたことに小さな妹がショックを受けた顔をしているが、アスファルだって今はとても大変なのだ。
それにこの服をどれだけ苦労して手にしたのかを知らないのだろう。
泣き出した幼い子どもたちをフラーはあやすように抱き抱える。
大きな弟や妹たちはアスファルを鋭く睨みつけていた。
(父が死んでから誰が養っていたと思っているんだ。もう解放してくれよ……!)
結局、アスファルは彼らに何も言わずにボロボロの小屋を出た。
子どもたちの泣き声が耳障りで仕方ない。
アスファルは家族の心配よりも、金のことで頭がいっぱいになる。
(どうやって金を工面しようか……暫く屋敷の使用人は雇えない。そうだ、従業員の仕事量を増やそう。税を引き上げれば多少なりとも金が手に入るか)
そう考えている途中に、後ろから名前を呼ばれて舌打ちをする。
振り返りもせずに首を捻り視線だけを送る。
薄汚れたワンピースを着たフラーが「待って……!」そう言いながらアスファルを追いかけてくるではないか。
このまま置いて去ろうかと思ったが、屋敷までこられても困る。
それに弟や妹たちもアスファルに縋ろうとしていた。
(あんな奴らが僕の屋敷に立ち入ることは許されない……! 家族がこんなだと知られたら、また馬鹿にされてしまう!)




