①⑤
「ねぇ、アスファル……これ以上、悪くなることなんてないわ」
「……!」
「それに何があっても私がいるわ。私があなたを最後まで支えるから安心して」
フラーの力強い言葉にアスファルは感謝していた。
彼女がいなければ潰れてしまっていただろう。
「ありがとう、ありがとう……フラー」
心強いフラーの言葉にアスファルは背中を押されていた。
それからは少しずつ人が戻ってきて、商会の信頼も取り戻していく。
年老いた商人に教えてもらったことを思い出しながら着実に前に進んでいく。
彼女がいたからここまで頑張れたのだと言っても過言ではないだろう。
元通りになるにはまだまだが、なんとか商会も軌道に乗ってきた。
「フラーのおかげだよ。本当にありがとう」
「アスファルが頑張っているおかげよ。あなたを信じているわ」
「……フラー」
「あの時、あなたに出会えて本当によかった」
「僕もだよ。今の僕がいるのはフラーのおかげだ」
アスファルはフラーの笑顔に癒されていた。
苦労をかけている彼女を幸せにしたい、その強い思いも仕事への原動力になっている。
アスファルはもう一人で頑張らなくてもいいのだ。
(この仕事が落ち着いたらフラーにプロポーズをしよう。フラーと一緒なら幸せになれる)
今ではフラーがいない未来など考えられない。
その気持ちを伝えるために、フラーのガサガサになってしまった手を握る。
「フラー、いつも僕たちを支えてくれてありがとう。いつか君に楽をさせてやりたい。幸せにしたいんだ」
「……それって」
「今は苦労をかけているけれど僕と結婚してほしい」
そう言うとフラーは大きく目を見開いた。
ブルーの瞳が揺れ動き、飛び込むような勢いでアスファルを抱きしめた。
アスファルはフラーを受け止めきれずに後ろに倒れてしまう。
顔を上げたフラーは小さく「ごめんなさい」と言った後に涙を流している。
アスファルが慌てているとフラーは首を横に振った。
「フラー、どこかぶつけたのかい?」
「……っ、違うわ。嬉しくて泣いているだけ」
アスファルはフラーのハニーゴールドの髪を撫でた。
出会った頃よりもゴワゴワとした髪。
指先も何も知らなかったよりも固くなり、痩せ細った姿を見ると胸が痛む。
「よかった。それで君の答えを聞かせてくれる?」
「もちろんよ、あなたと結婚したい……みんなで一緒に幸せになりましょう」
「ありがとう、フラー」
そのまま二人で抱き合っていると、扉からコソコソと聞こえる声。
そちらに視線を向けると弟や妹たちが扉の隙間から二人の様子を覗いたようだ。
「コラッ、お前たち……!」
「アスファル兄ちゃんが怒った!」
「逃げろー!」
賑やかな家と大切な家族。愛する恋人。
この場所を守りたいとアスファルは強く思った。
(フラー……必ず君を幸せにしてみせるから)
その日からアスファルは少しずつ人を集めて堅実に商会を立て直していく。
フラーも家事の合間にパン屋の裏方を手伝い、あまったパンをもらってきて食費の足しにしていた。
弟や妹たちもフラーの手伝いや自分よりも幼い子どもたちの面倒を見ていた。
彼女は懸命に働きながら寝る間も惜しんでアスファルを支えてくれた。
「ねぇ、アスファル。いい服を買いましょう。身なりを整えるだけで違うと思うの」
「だが、うちにはそんなお金ないだろう? 母さんの薬だって買わないといけないのに……」
「私がもっとがんばるから!」
「フラー……」
「アスファルはもっと上に行けるわ!」
フラーに感謝しつつ、アスファルは上品な服を買った。
アスファルにとってありえないほどの大金だったため、店に入った時から震えが止まらなかった。
いつもよりも分厚い生地。袖を通すと自然と背筋が伸びる。
(まるで別人になったみたいだ……!)
それから意外にも貴族社会の繋がりに詳しいフラーに驚きつつも素直に従うことにした。
彼女の意見を取り入れながらやり方を変えると面白いほどにうまくいった。
アスファルが服装や髪型、身につけるものを変えていくと貴族たちは態度をコロリと変えたのだ。
(フラーの言う通りだ。こんなに信頼してもらえるなんて信じられない!)
もちろん目先の利益だけでなく、人との繋がりやコミュニケーションを大切にしていく。
するとアスファル自身の評判も次第に上がっていき、貴族たちに名指しで選ばれることも増えていった。
それからはどんどんいい方向に向かう。
トントン拍子に進んでいく事業。
それと同時に貴族たちに誘われるがままアスファルは色々な場所で新しい経験をすることになる。
最初は華やかすぎて目が眩んだ。
自分たちはあんな惨めな思いをして地べたを這いつくばる思いで必死に生きているのに、彼らはこんなにも贅沢三昧をしている。
(こんな格差があったなんて……耐えられない!)
しかしアスファルは笑顔で耐えるしかなかった。




