①③
【あらすじ】
平民のアスファルは将来を約束したフラーという女性がいた。
二人で支え合って家族を養っていたが、アスファルはチャンスを掴んで男爵となる。
「フラー、君とはもうやってはいけない。僕はラウラと結婚するこになった」
アスファルは家族の世話をすべて任せていたフラーを捨てて、貴族の女性との結婚を選んだ。
けれど半年後、フラーがアスファルの前に現れて──。
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「フラー、君とはもうやってはいけない」
「…………え?」
「僕はラウラと結婚するこになった」
彼女のブルーの瞳が大きく揺れ動いているのを冷めた気持ちで見つめていた。
「どうしてそんなことを言うの……? アスファル」
「もうお前に用はない。今から俺に必要なのは権力や爵位なんだ」
「でもみんなはどうするの!? そ、それに結婚するって言ったのに……」
「状況が変わったんだ。お前ならわかってくれるだろう?」
フラーは今まで反抗することなくアスファルと家族のために尽くしてくれた。
だが、このままフラーと結婚しても未来は変わらないどころか貴族として成り上がることはできない。
そんなアスファルに巡ってきた大チャンス。
ダルモンテ王国とアーテルム帝国を繋ぐ架け橋となるために、また今より成り上がるためにヴィジョン伯爵家の長女であるラウラと結婚しなければならない。
(そうすればガルベン男爵家の未来は明るい……! こんな貧乏女を捨てて、ラウラと結婚できさえすれば……っ)
後ろ盾もなく何の力もないフラーには、この命令に逆らうことなど絶対にできないだろう。
それに今更アスファルの悪い噂を言いふらされたところで痛くも痒くもないではない。
もう住む世界が違うのだから。
(僕はもう貴族の仲間入りだ。これからは華やかな世界で生きていく……!)
フラーはラウラの言葉を聞いて怒りからかブルブルと震えている。
彼女がいくら怒ったところで何の権力もないため怖くない。
「…………そう、わかったわ」
フラーの青い瞳から光が消えた。
「わ、わかってくれたならよかった」
「もう……私が知っている〝アスファル〟はいなくなってしまったのね」
アスファルの思った通り、フラーはそう呟いただけで他は何も言うことはなかった。
そうするしかないのが現状なのだ。アスファルの唇は弧を描いていく。
たしかに妻にするにはフラーはいい女だったかもしれない。
けれど貴族社会では何の役にも立たない。
ラウラはわがままで貴族らしい令嬢ではあるが、彼女がいればガルベン男爵家の名前は王家にまで届いて子爵まで登り詰めることができるはずなのだ。
アスファルも正式に貴族の仲間入り。もう元平民だからと馬鹿にされることもない。
(こんな女といたら、俺まで貧乏くさくなってしまうだろう?)
光り輝く道を駆け上がるためには邪魔になったものを排除しなければならない。
それは当然のことなのだ。
(これでいい……これでいいんだ!)
自分に言い聞かせるように呟いた。
この選択が、まさかあんな結末を招くとは思わずに……。
* * *
アスファルは平民として生まれた。
八人兄弟の長男として苦労して育ったのだ。
貧乏だったが家族が元気でいてくれたらそれだけで幸せだった。
そんな時、悲劇が起こる。
父を仕事の事故で失ってしまい、一番上のアスファルが家族を支えなければならなくなった。
いきなりアスファルが父ほど稼げるわけもなく、さらに苦しくなる生活。
水だけで過ごさなければならず、このままだとみんなが飢え死にしてしまう。
貧乏生活から抜け出したくてアスファルはがむしゃらに働いた。
自分は贅沢をすることもなく、ただ家族を支え続けるためだけに寝る間も惜しんで金を稼ぐ日々。
大変だったが家族がいるから頑張ることができた。
そんなある日のこと。
稼げる仕事があると言われて疑いつつも年老いた商人を紹介された。
彼は隣国へ珍しい商品を仕入れて貴族相手に商売をしていたのだ。
アスファルは下働きとして雇われることになった。
彼が厳しいことや重労働の割に拘束時間が長いため、金が貰えるとやってきては一日でやめてしまう者もいるそうだ。
けれど今のアスファルに仕事を選んでいることはできない。
たしかに仕事はつらいし、覚えることは山のようにあった。
アスファルは文字の読み書きができずにいたが年老いた商人に文字を学ぶように言われる。
働きながら文字を学んでいたが毎日頭がパンクしそうになるくらい大変だ。
けれどアスファルは学べる環境にいられることを心から喜んだ。
勢いのまま異国の言葉も学んで実践していた。
失敗することもあったけれど立ち止まっている時間はない。
アスファルは寝る間も惜しんで勉強に励み誰よりも働いた。
ただ目の前のことを必死にやり続けたのだ。
アスファルは熱意を買われて、どんどんと大きな仕事を任されるようになる。
国を周り知識をつけながらもらった給金をすべて家族の元へ届けていた。
その他は勉強のためだけに使っていた。
そんな日々が三年ほど続いただろうな。
突然、年老いた商人に自分の跡を継いでほしいと言われたのだ。
アスファルよりも長く彼の元で働いている人たちはたくさんいた。
だが、年老いた商人はアスファルを選んだのだ。
嫉妬や羨望の視線を送られていたが、一番驚いていたのはアスファルだった。
後に老人に理由を問うと意外なことを口にした。
『選んだ理由? そんなものは簡単だ……お前が一番、欲のない人間だからじゃよ』




