①①
──偏った思考のまま一週間が経とうとしていた。
結局、王家主催のパーティーに参加することはない。
部屋に閉じこもり、自身の心と闘っていたがサフィードは精神の限界を迎えていた。
(どうしてこんなことに……?)
フィオーネはここに来るべきではなかったのだ。
この国にとって必要のなくなったサフィードには何の価値もない。
ふと、サフィードはあることに気づいてしまう。
(ああ、そうだ。フィオーネが……フィオーネが悪い。フィオーネがここに嫁いでさえこなければこんなことになることはなかったんだ)
サフィードが項垂れて謝罪したとしてもフィオーネは許してはくれない。
こんな自分に価値がないと思っていたはずなのに、次第にフィオーネのせいだと思うようになる。
二度とあの笑顔を向けてくれないのなら、いっそのこと壊してしまえばいいではないか。
(そうだ……彼女が…………フィオーネがここにいるからおかしくなったんだ)
酒を大量に飲んでも飲んでも満たさないのもフィオーネのせいなのだ。
妻さえいなければ娼館に通っていても女性と遊んでも文句を言われない。
そうすればまた元通りに戻れる。
屋敷の中から出ない堕落した生活に戻ることができたらそれでいい。
あとは適当に執事がどうにかするはずだ。
今日はフィオーネの誕生日前日だった。
結局、フィオーネとの約束を守ることはできなかった。
けれどそれはサフィードが悪いわけではない。
フィオーネがサフィードを求めないことが悪いのではないだろうか。
(……消えてしまえ。彼女が消えればなかったことと同じ)
彼女とはあの日から一度も顔を合わせていない。
今度こそ見放されたのだと思った。
サフィードは夜が更けてから動き出した。
いつのまにかフィオーネの十六歳の誕生日になった。
はからずとも『一緒に誕生日を過ごす』という最後の願いは叶えてやれるはずだ。
(一緒にお前と過ごしてやる。これで満足だろう?)
クローゼットの中、奥深くに閉まってあった剣を取り出す。
最近は手入れをしておらずに錆びついた剣では汚く嬲り殺すことになってしまう。
(せめて……綺麗に殺さなければ。フィオーネは綺麗なまま死ぬべきだ)
サフィードは枕の下に隠してある短剣を取り出した。
こちらは寝込みを襲われそうになっても対応できるようにと手入れしていたため、切れ味はバッチリだろう。
酒を大量に流し込んでから、口元についたアルコールを手の甲で拭った。
静まり返った廊下を裸足で歩いていき、フィオーネの部屋へと向かう。
フラフラとした足取りで廊下を歩いていく。
結婚しても部屋は別々で二人の寝室はない。
それは自分がずっと娼婦を連れ込んでいたからでもあるが、フィオーネも何も言わなかったからである。
(フィオーネは俺のために動くべきだったんだ……! そうすれば俺だって……愛してやったのにっ)
サフィードは言い訳を繰り返していた。
フィオーネの部屋の前へ到着する。
何故か鍵はかかっていなかったため、扉はすんなりと開いた。
視界がぼやけていたが、ベッドで寝ているであろうフィオーネの元へと向かう。
(ああ……これで終われる。フィオーネがいなくなれば元に戻れるんだっ!)
もうすぐ訪れるであろう解放……楽になれるからと想像して胸が高鳴る。
フィオーネが泣き叫んで悲鳴を上げでもしたら困るが、そうしたら自分を見下してきた奴らもまとめて全員殺してしまえばいい。
(俺がずっとずっとダルモンテ王国を守ってきたんだ! もっと俺を敬うべきだ。周りの評価がおかしいんだ。俺は間違っていないっ)
足音を立てないようにゆっくりとゆっくりとフィオーネの元へ。
彼女はベッドで仰向けになり眠っていた。
まるで人形のように美しい顔で。
真っ白なシーツ、真っ白な枕、真っ白に見える髪、真っ白な寝間着。
綺麗だとそう思ったが、今の汚れた自分には眩しくて仕方がない。
サフィードはベッドに体を乗り上げて、フィオーネの体を挟み込むようにして跨った。
シーツを剥いで心臓の位置を確かめる。
今、思えばこの時に彼女がここまでして悲鳴を上げないどころか起きないことに気がつくべきだったのだ。
サフィードは両手に短剣を持って大きく手を振り上げた。
(これで俺は〝フィオーネ〟から解放されるんだ……っ!)
そう思ってフィオーネの心臓に短剣を突き刺そうとした時だ。
暗闇の中、フィオーネのエメラルドグリーンの瞳がこちらをまっすぐ見据えていることに気づいて目を見開いた。
「サフィード様、紅茶はいかが?」
「…………紅、茶?」
サフィードは紅茶と聞いてピタリと動きを止める。
フィオーネはゆっくりと体を起こすと、サフィードの耳元で囁くように言った。
「えぇ……そうですわ。このままでは満たされないでしょう?」




