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第8話 篠本紗奈が強引すぎる


 高校入学式から1週間が経った。

 ……もっとも、私にとっては2回目の高校入学式だったけれど。


 ただの夢かと思った2周目の高校生活は、普通に1週間が経ってしまった。

 流石に体感3年前ということもあって、覚えていることも覚えていないこともあったけれど、おおよそ前回と同じように進んでいると思う。

 やっぱり違うことと言えば……礼華先輩くらいか。


 二条院礼華先輩。

 1周目の時も私と同じように智一君を好きになっていた人。

 すごく面白い人で、仲良くもしてもらったけど、礼華先輩が卒業してからは会っていない。

 思えば、卒業した後に智一君に礼華先輩のことを聞いても、はぐらかされるばかりだった。

 

 2周目初日の入学式。

 私が智一君と出会った日のイベントは、礼華先輩によって遮られた。

 つまり、礼華先輩は1周目の記憶を持っていると考えて良いと思う。

 ……焦ってギャンブル大好きカミングアウトしちゃったけど、仕方ないよね。だってあれが最初の智一君と私の繋がりだったから……。


 入学式に彼にギャンブル関連の本を見られてしまったことで、彼との関係は始まった。

 その繋がりが無くなったら……?そう思うと怖かったから、私は無理にでも彼にあの本を押し付けたのだ。


 一旦その話は置いておいて。

 礼華先輩が私と同じように2周目の高校生活を送っている、とするとだ。

 

 礼華先輩と私以外にも、2周目を送っている生徒がいてもおかしくない。

 そして、礼華先輩と私の共通点は、「宮智一君のことが好きだった」ということ。

 

 であれば、同条件の生徒なら、もしかしたら2周目の高校生活を送っているかもしれない。


 「篠本さんおはよう~!」

 「おはよう~!」


 クラスの皆に挨拶を返しながら、私は教室の中を歩いて行く。

 教室の一番後ろ、窓際の席を見る。

 まだ、智一君は学校には来ていない。けれど、私はその席の近くに向けてぐんぐんと歩いて行く。


 目的の人物は、既に席に座っていたから。


 「あの、泉さん。おはよう」

 「……?おはよう」


 泉想夜。

 この子もまた、宮智一君のことが好きだった一人だ。……私が言うのも変な話だけど……智一君モテすぎでしょ、まったく、罪な男め。

 問題はこの泉さんが、今2周目なのか、ということ。


 「あ、えっと……私篠本紗奈って言います」

 「?知ってるよ?」

 「し、知ってる?!」


 し、知ってるということは泉さんも……!


 「え、自己紹介してたじゃん」

 「あ、ああそうだよね……」


 な、なんだそういう事か……。

 でも、まだ分からない。

 

 「あ、あのさ、私の事……覚えて、る?」


 この聞き方なら、もし2周目を今送っているのなら、まず間違いなく1周目のことを覚えているか、という質問に聞こえるはず。

 しかし、泉さんの表情は、怪訝な表情から変わらず。


 「え?私達会ったことある?」

 「あ、いや!違うの、ごめんね。泉さんがその、昔の知り合いに似てて……」

 「……そう」


 それだけ呟くと、泉さんはスマホに目を戻した。

 ……2周目じゃ、ないのか。


 私はゆっくりと席に戻る。

 段々と人が増えてくる教室、騒がしいとすら感じるようになってきた。

 

 「うっす~HR始めんぞ~」

 「やぎちゃんおはよ~!」

 「やぎちゃん言うな」


 担任の青柳先生が入って来て、ホームルームの時間に。

 連絡事項を聞きながら、ちらりと後方……泉さんの方を見る。

 彼女はいつも通り、つまらなさそうに窓の方を眺めていた。

 あ、隣にいる智一君があくびした。……じゃなくて。

 

 私は前を向いて、泉さんについて考える。

 ……できれば、泉さんには覚えていて欲しかった。

 2周目で、あってほしかった。


 それは何故か。

 

 おそらく彼女は……1周目、つまり前回の高校生活で――



 智一君と()()()()子だからだ。


 

 絶対そう、という確証はないけれど、礼華先輩も、私も、そして後輩のもう1人の子も、フラれたという事実があって、彼女だけがどうなったか知らないし。

 元々、智一君は泉さんのことを「タイプ」と言ってちょっかいをかけていたことは事実だから。

 おそらく泉さんが選ばれたんだろうと思う。


 この2周目、私は全力で智一君と結ばれるように努力するつもり。

 だからこそ、2周目という明確なズルを使って、私が今回、智一君と結ばれたとしたら。


 それは本来結ばれるはずだった彼女から智一君を奪い取るような形になっているような気がしたから。


 だから、できれば泉さんも1周目を覚えていて、お互いフェアな形で、2周目をやりたかったな、なんて。


 「うっしじゃあ号令~」


 ……結局、ホームルームの内容は、全然頭に入ってこなかった。




 


 その日の放課後。


 「あ、篠本~」

 「はい!」


 帰りのHRが終わった後に、青柳先生から声をかけられる。

 これは、覚えている。


 「篠本まだ部活決めてないみたいだけど、決まった?」

 「……いえ、実は生徒会に入りたくて、部活動あまり入りたくないんです」


 青柳先生から部活動を聞かれる。1周目もあったのを、よく覚えている。


 「なんかそんな気したわ~でもごめんな~うちのガッコめんどくてよ~生徒会も含め全員部活動入んなきゃなんだわ~」

 「そうなんですね」


 3年間通った学校の事なので、もちろん知っているけれど、知らなかったことにしておこう。

 

 「ってなわけで来週中に部活決めて欲しくてな~、あ、あとうちのクラスの宮と小暮もまだ部活の申請してなくてよ、そっちの2人にも言っておいてくれない?」


 きた!

 1周目でもあった、智一君とのイベント。


 「分かりました。ちなみに青柳先生はなんの部活の顧問をされてるんですか?」

 「私?私は剣道部と……あと一応ボドゲ部の顧問もしてるな」

 「ボドゲ部ですか」


 懐かしい響きだ。私が3年間入っていた、部活動。


 「ボドゲ部なら緩くて良いぞ~週1、2回しか活動してないしな~」

 「分かりました、ありがとうございます」


 よし、後は智一君の所に話しに行くだけ……!


 「……篠本どした?」

 「え?」

 「いややけに嬉しそうな顔するなあと思って」

 「な、なんでもないです!」


 まずいまずい。1周目の時はもちろんこんな事は言われなかったし、なんなら私は当時面倒くさいなと思っていたはず。

 そりゃこんなニコニコしてたらおかしいか。気を付けないとね。


 「ふーん、まあいいか。じゃ、頼んだぞ?」

 「はい!」


 私は不思議そうな顔をする青柳先生を見送ってから、智一君の元へと向かった。



 「智一君、ちょっといいかな?」

 「な、なんでございましょう」


 本を読んでいた智一君に、話しかける。

 幸いもう教室内に人は少なくなっていた。

 ……なんか智一君の反応がビビってるみたいなんだけど、一周目の時こんなだったっけ……?


 「青柳先生から、部活動の申請してないの、私と智一君と小暮君だけだよって言われちゃってね」

 「あ、自分帰宅部のエース目指します」

 「全校生徒部活動に入らなきゃいけないらしいよ?うちの学校」

 「切り返し早くない?」


 今度は1周目も言われたセリフだったからバッチリ覚えていた。

 

 「え~……マジかどうしよっかなあ」

 「私今から、ボドゲ部の体験行こうかなと思ってるけど一緒に行く?」

 「ボドゲ部?」 

 「私生徒会に入りたくて、あんまり重い部活入りたくなくてさ、ボドゲ部は週1、2回の緩い感じらしいから、良いかなと思って」


 1周目の時、私は打算的に彼を誘った。

 秘密を握られているし、ちょっとは仲良くしとかないとバラされる、って思ってたからね。


 「ボドゲか、楽しそうかも?ん、待てよ……?ボドゲ……篠本さん……はっ!」

 「なにかな?」

 「ナンデモナイデス」

 

 何かに気付いたような顔をしていたから笑顔の圧力をかける。

 この怯んだ感じの智一君も可愛いね!


 


 廊下を歩きながら。

 私達はボドゲ部の部室がある旧校舎へと来ていた。

 やはり、旧校舎は文化部の部室があるくらいなので、人通りは少ない。

 隣を歩いているのが智一君というだけで、テンション上がるなあ。


 そういえば、1周目の時はこんな話をしていたっけ。

 

 「智一君、分かってると思うけど……あれは絶対に秘密だからね」

 「も、もちろんです」

 

 そうそう、こんな話してたっけ。あとは――


 「君も人が悪いよね、わざわざ教室で返すなんてさ」

 「え、なんのことですか?」

 

 はっ!しまった!これは1周目の話!

 2周目である今回は私から押し付けてる!

 どうしよう!

 私は軽いパニック状態になってしまって。


 「私の愛読してるギャンブル本、拾ったのがまさかクラスメイトだったなんてね」

 「怖い怖い怖い押し付けてきましたよね?!」


 1周目に言ったセリフそのまま言っちゃった~!

 ご、ゴリ押すしか……。

 私は覚悟を決めて、智一君の正面に立つ。


 「智一君は、私が落としたギャンブルの本を拾って、私の秘密を知りました、OK?」

 「ええ~……も、もうなんでもいいや、お、おーけー……」


 よ、よしよし。これできっと1周目と同じ形になったはず。問題ないよね。


 そうこうしている内に、ボドゲ部の部室へとたどり着いた。


 「ここがボドゲ部の部室みたいだね」

 「けっこう古めかしい感じっすね」


 『ボドゲ部』と書かれた張り紙が貼られているだけの、元教室。

 それがこのボドゲ部の部室だった。

 ここも、思い出がたくさんある場所。


 また、ここに来られるなんてね。

 ドアを、開いてみる。

 少し立て付けの悪い引き戸は、軽く上に引っ張ってあげないとスムーズに開かない。


 「こんにちは~」


 ガラガラと音を立てて、教室の中に入った、その瞬間。



 私は、目を見開いた。



 「あら、珍しいお客さんですわね」



 1周目には絶対にいなかった人が、いたから。



 特徴的な、金髪サイドテール。



 「礼華、先輩……?」

 「ようこそ、ボドゲ部へ。部長の二条院礼華ですわ?」

 

 

 1周目では部長はおろか――

 ボドゲ部にすら入っていなかった礼華先輩が、笑顔でそこに立っていた。


 

 



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