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第7話 澄川葉純が通い妹すぎる


 「ただいま~」


 時刻は夜の19時頃。

 

 無事に喫茶店での仕事を終えた俺は、家に帰ってきた。

 しかし礼華さんは本当によく分からん人だな……1日で何回あの人に会う事になるのかと思ったぜ。

 何度も言うようだけど、可愛いから全然OK!ではあるんだけどさ、ほら、流石にこう、怖いじゃん。

 モテ期きちゃ!!とは流石にならないよ。


 外装は少し古さが目立つアパートの一室。

 1階の103号室のドアを開けると、部屋の中は明かりが点いていた。

 

 きっと有紀音がお腹を空かせていると思うので、ご飯を作ってやらねば。

 そう思って居間へと入ると。


 「おかえりなさい智一君!」


 ……妹ではない少女が、制服の上からエプロンを着て、どや顔腕組み立ちという、わけのわからない状況で迎えてくれた。


 「今日の夕飯は私が作りますよ!葉純はずみは偉すぎて料理もできてしまうのでね!」


 ふんす!と効果音がつきそうなほどふんぞり返る少女。尚、いくらふんぞり返っても胸はない。

 状況がカオス過ぎて、とりあえず頭を掻くことしかできない。

 いやまあ、カオス過ぎるとは言ったものの、実はよくある事ではあるんだけど。


 「あ~……葉純ちゃん、今日はどうしてまた……」

 「有紀音ちゃんに聞きました!今日は生徒会の仕事も多くはありませんでしたのでお気遣いなく!」


 この少女、名を澄川葉純と言う。

 瑞々しい黒髪を水色のポンポンがついたヘアゴムで2つ結びにしているそのヘアスタイルは、大変可愛らしい。

 妹と元々仲が良かったこと、そしてたまたまとある出来事で彼女の助けをしてから、妙に懐かれている。

 そして何を隠そう、紫水ヶ丘中等部の現生徒会長だ。


 「中等部の生徒会長サマがこんなところ来てて良いの?」

 「私は親友のおうちにお邪魔しているだけです!お母さんも、行ってきなさいって言ってくれてます!」

 「そうかい……」


 ちょうど料理中だったのか、思い出したように「焦げちゃう!」と言ってキッチンへと向かって行く葉純ちゃん。

 ぶっちゃけこうして彼女が料理しに来ること自体は良くある事なので、キッチンの使い勝手も慣れたものだろう。

 

 正直喫茶店のバイトの後は帰りがこのくらいの時間になってしまうので、夕飯を作ってくれるというのは助かるは助かるけど……。 


 「あ、お兄帰って来たんだ」

 「ん、ただいま。有紀音まーた葉純ちゃんに料理させとるのか」

 「だって葉純が作りたいって言うから……あ、安心してね食材代はちゃんとウチから出してるよ」

 

 自分の部屋から出てきた妹はそれだけ言い残すとキッチンにいる葉純ちゃんの元へと向かって行く。

 そういうことではないんだけどなあ……。

 

 「何か手伝おうか?」

 「大丈夫!ゆきちゃん触るもの全て壊しそうだから!」

 「ひどくない?」

 

 どうやらうちの妹は戦力外通告を受けたようです。

 なんだよ触るもの全て壊すって。うちの妹はバトル漫画で出てくる能力制御できなくて忌み子扱いされてたキャラクターかなんか?

 いやまあ、確かに有紀音は料理からっきしだけど……。


 とにかく料理は妹ズに任せて、俺は一旦シャワーでも浴びるか、と浴室の方へと向かうのだった。




 「できました!」


 どうやら俺が帰って来たタイミングは料理の工程としてはだいぶ終盤だったようで、シャワーから出て来れば、既に色とりどりの料理が机に並んでいた。

 

 肉じゃが、サラダ、味噌汁、ごはん……なんて家庭的な料理なんだ。

 

 「相変わらず葉純ちゃんは料理が上手いね……」

 「えっへん。私は自分が怖いです……葉純はなんでもできてしまいます」

 「美味しそ~いただきます~」


 葉純ちゃんの御託は放っておいて、早速、味噌汁から頂くことにする。

 ……うん、美味しい。味噌汁は自分でも作るけど、葉純ちゃんが作る味噌汁は優しい味がする。……俺がいつも味濃すぎるだけかもしれないけど。

 

 「美味しい。本当に上手だね」

 「えへへへ。そ、そんなに褒めてもなにもでないですよお~?」


 食事をしながら、デレデレとしている葉純ちゃん。

 こんなデレデレなのに生徒会長として振舞っている時はちゃんとしているから不思議だ。

 まあ、背丈が小さいのでどうしても可愛いという印象が勝ってはしまうんだけどね。


 「あ~マジで美味しい葉純私の嫁になって」

 「え、ええ~!ゆきちゃんのお嫁さんにはなれないけど……」

 「おい妹よ聞き捨てならんな、いつも食べている俺の料理が美味しくないと言いたいのか!」


 あれ、思わず突っ込んじゃったけどなんか今葉純ちゃんこっち見てた?気のせいか。

 

 「……お兄マジで空気読めないよね……」

 「なんだそれは!そんなことよりどうなんだ!俺の料理は食べられないのか!」

 「いや全然いつもありがとうなんだけどそれはそれとして味が濃すぎるの」

 「智一君の料理はかなり濃い目ですもんね……」


 味は濃い方が美味しいだろ! 


 そんなあーでもないこーでもないと言いつつ、夜の時間は過ぎていった。




 「す、すみません家まで送ってもらっちゃって。智一君明日も朝早いですよね?」

 「あ~慣れてるから大丈夫よ。気にしないで」


 夕飯を作ってもらった後、あんまり遅くに帰すわけにもいかないので、葉純ちゃんを家まで送ることに。

 妹から「バカ兄は葉純を家まで送って」と言われました。ばっかお前そんなの言われなくてもするわい!

 と言いつつ皿洗いを始めるのだから可愛い妹である(妹バカ)。


 うちから葉純ちゃんの家までは歩いて15分ほど。

 これくらい近いから、葉純ちゃんも気軽に来れるというのはある。

 ……だからといって、一応男もいる家にそうポンポンと来るものではないと思うのだけれど。


 特に、葉純ちゃんには少し迷惑をかけたからね。

 あんまり俺と接している所を学校の他の生徒に見られることはしない方が良いと思うのだけど。


 

 「じゃ、またね。今日はありがとう。でも前も言ったけどホント無理はしなくて良いからな」


 葉純ちゃんは有紀音と仲良しということもあって、うちの家庭事情をある程度知っている。

 だからこそ、料理とかしに来てくれているとは思うんだけど。

 中学時代に色々あった関係で、個人的には俺には関わらない方が良いと思っているからこそ。


 そんな風に言葉を濁してから、俺は踵を返した。


 「智一君!」


 そうして歩き出そうとした俺を、葉純ちゃんが引き留める。

 振り返れば、葉純ちゃんは今日初めて見た時と同じ、どや顔で立っていて。


 「私は誰になんと言われようと、智一君に会いに行くのやめません!もちろん、有紀音ちゃんとも。高等部にも嫌って言ってもぜっっっったい会いに行きますから、覚悟しててくださいね!」


 俺が目を見開いてびっくりしている間に、「それでは!」とぺこりとお辞儀をして、家へと入っていく葉純ちゃん。

 

 彼女が家に入って、鍵をかける音を聞いてから、ようやく我に返る。


 「……敵わないね」


 その力強い決意表明に、俺は今日彼女と会った時と同じように、頭を掻くことしかできなかった。





 その後。


 そのまま家に帰ろうと思ったのだけれど。

 その帰り道に、妹から着信。


 『お兄、今日買って来てって言ってた洗剤と歯磨き粉どこ?』

 『……あ』

 

 いっけね、諸々ドラッグストアで買い込んだ袋を、喫茶店に忘れてしまった。


 『えーーおにいたま、喫茶店に忘れてきてしまったでござる!』

 『バカ兄。回収してきて』


 プー、プー、と。通話が途切れたことを知らせる電子音。

 まったく。昔はあんなに可愛らしかったというのに、最近は反抗期になっちゃってもう。

 

 まあ、それでもお兄ちゃん好きなのをちょっと隠しきれないところが、また可愛さでもあるんだけどね☆


 仕方ないので、少し時間はかかるけど、バイト先の喫茶店へと向かうことに。

 もうこの時間店は閉まっているけれど、みさきち店長から合鍵は預かっているので、出入りすることはできる。

 

 夜の街をゆっくりと歩いて行く。

 駅近くのこの辺りは、北口と南口でかなり町の様相が違う。

 学校もある北口は、比較的健全で、チェーンの飲食店なども立ち並んでいる。

 逆に南口は、夜は少し歩きにくい。というのもガールズバーやらキャバクラやらホスト等、夜の街らしいお店が比較的多いから。

 喫茶店はこの南口にあるのだけど、夜遅くまでは営業していないのでいつもはそんなに気にならない。 

 

 「わっすれ~もの♪わっすれ~ものっ♪」


 煌びやかな駅の歓楽街をスキップしていく俺は完全に浮いている。制服だったら補導まったなしだね!


 と、その時。スーツ姿の男性の後ろを歩いている少女が目に入る。

 後ろには大き目のバッグ?を背負っていたから最初は顔が見えなかったのだけれど。

 

 「え?」


 角を曲がる瞬間。

 見えたその顔が知っているものだったから、思わず動きを止めてしまった。

 2人は路地裏の方へ曲がっていく。

 

 思わず少し追いかけて……けれど、路地裏を覗き込んでも、そこには既に誰もいなかった。

 けれど、流石に見間違いとは思えない。

 

 今そこを曲がったあの少女は。


 「泉さん、だよな……?」


 泉想夜。

 知り合ったばかりの、クール系美少女。

 彼女が何故こんな場所にいるのか。

 俺は今、見てはいけないところを見てしまったのか。


 夜の歓楽街の喧騒が、いつもよりも深く耳に残る気がした。








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