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SIDE クロディーヌ2

「誰か、わかっているの?」

「いや、盗み聞いてしまって、話途中だったから確実ではないのだけれど、」

 エヴァリストは前置き長く間をあける。コホンと一度咳払いをして、ちらりと私を見やった。


「クロディーヌの家も候補に上がっているらしい」

「え?」

「そ、そっちは。婚約とか話は出ているのか?」

「わ、私の家は、聞いたことないわ。そんなの、お父様が、決めるでしょうし。怒られてばかりで、そんな話」

「剣の腕は上がったんだろうな」

「もちろんよ。今度の狩猟大会にも出るわ」

「へえ。今度手合わせしようか。狩りに行くとか。その、だから、時には会わないか?」


 その言葉に、嬉しくて、舞い上がりそうになった。


 その後、お互いの予定が合わず、一緒に狩りなどに行けなかったが、誘ってもらえたのが嬉しかったのだ。私には時間はあるが、エヴァリストは学院を出たばかりで後継者としての学びが必要で、会う暇など作れなかった。

 パーティで会えば話はする。けれど、それだけ。それだけでも、私には幸福なことだった。


 もしかしたら、エヴァリストと婚約するのかもしれない。そんな希望が、私の胸にあった。

 なのに、


「婚約? ハンネス・モーテンセンと?」

「良い縁談だろう」

「お父様!?」


 お父様は私の言葉など聞きやしない。一方的に言って、さっさと部屋を出ていってしまう。

 どうして急に。しかも、相手がハンネス・モーテンセン?

 狩猟大会で、女のくせに大会に出るのかと笑い、私と比べものにならないほど成績が悪ければ、騎士に取らせたのでないかと言いがかりをつけてくるような、性格の悪い男と?








 ハンネス・モーテンセンは、一部の女性たちの間では有名だ。

 人によって態度をコロコロ変える男で、印象が良い悪いの評価が大きく分かれる男だった。


 父親があんな男を選んだ理由は単純明快だ。親のような立場の者たちには偽りの姿を見せているからだ。猫を被っているなんてものではない。二人いるのではないかというほど態度が違う。年上や権力者にはいい顔しかしない。身分が低い者にはひどい扱いをするのに。

 私も騙されていた一人なのだから、両親たちが気付いていないのも道理だ。


 婚約はあっという間に決まった。反対する暇もない。

 ベルティエ家はそれなりに名家だ。領地も広い。モーテンセン家は比較的新しい家門で、事業に長けている。お互いの利益が合ったのだろう。


「どうにかして、婚約破棄にしなきゃ」

「でも、そんなことをしたらお姉様の今後が」

「あんな男と結婚するぐらいなら、一人の方がマシよ。たとえ結婚しても、離婚してやるわ」


 結婚なんて寒気がする。いくら家のためとはいえ、あんな男ととはありえない。私が嫌悪感をあらわにしていると、シャルリーヌが思案顔をした。


「じゃあ、お父様たちに素行を知らせることが必要よね」

「言うだけじゃ、聞いてもらえないものね」

「証拠が必要よ。婚約すればお父様たちと話すことも増えるのだし、尻尾をつかまなきゃ。ね、お姉様。証拠を集めましょ!」

「ありがとう、シャルリーヌ」


 妹がやる気を出せば、メイドたちに言ってくると、止める間もなく部屋を飛び出していった。

 シャルリーヌはおっとりした性格と言われがちだが、双子だけあって私と性格があまり変わりない。つまり、突撃型である。考えたらすぐに行動し、反省は二の次だ。

 自分がくじけそうな時、妹の存在はありがたかった。


「私も、自分でなんとかしなきゃ!」

 決心ついでに、妹の応援をしておきたい。こちらはこちらで問題なのだと思いながら、演習場にいるであろう男に会いにいった。









「そんなことがあったんですか。なるほど、それで」

 とぼけたような返事をしながら、コンラッドが屋敷を見上げた。どうやらシャルリーヌがうろつくのを眺めていたようだ。屋敷内を行き来しているのが見えたのだろう。


「あなたも、ちんたらしてると誰かに盗られるわよ」

「えっ!? お、俺は。身分もありませんし」

「それはそうだけれど、あんたたちは両想いなんだし」

「そ、うでしょうか」


 大きな体をしているのに、丸くなって肩を下ろす。身分があるため自信が持てないのは当然かもしれないが、シャルリーヌのことはよくわかっているつもりだ。むしろどうして両想いではないと感じるのか、問いたい。あんなに二人で見つめ合ってるくせに、おかしいでしょう。


「なに言ってるのよ。自信持ちなさい!」

 ばしん、と背中を叩いてやると、それでも自信なさげに頷く。


 実際、身分の壁は高い。元平民と、貴族の娘。それを乗り越えるには、両親への説得が必要になる。コンラッドは騎士になって貴族の末端に入ったが、それでも身分の差はどうにもならなかった。


 私たちの現実。

 シャルリーヌのために、なにか良い手はないかしら。

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