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SIDE コンラッド3

 どうすればいいのか。ずっと考えていても、頭が悪い俺には、いい案なんてこれっぽっちも浮かばなかった。

 日にちだけが過ぎていく。


 エヴァリスト様から紹介を受けた医者が、シャルリーヌ様の体調を診てくれるだけましか。シャルリーヌ様は何度か診断を受けている。体調は良く、お腹の子供も問題ないと聞いた。その話を直接聞けないのは残念だけれど、これも自業自得だ。


「喜んでいるのに、それを表に出せないなんて」

 なんて虚しいものだろう。それも、シャルリーヌ様に負担をかけるのだから、最低なんてものではない。


「最悪だ」

「なにがよ」

「お嬢様!?」


 後ろから気配を消して来ないでほしい。今日はクロディーヌ様が剣を持ってやってきた。シャルリーヌ様は無理ができないので、負担を減らすために弓の練習にしていた。少しは動いた方がいいとは言え、剣を使うなど言語道断だ。だから、剣を持っていればクロディーヌ様である。そんなものを見ないでも分かるけれど。


「なんだか、顔色がいいですね」

「そう?」


 このところシャルリーヌ様だけでなく、クロディーヌ様も顔色が悪かった。ハンネスとの婚約を破棄するために、エヴァリスト様とあれこれやっていたが、不安もあったのだろう。やっと婚約破棄が決まって、喜びたいが暗い顔をしていなければならないとは言っていたが、その暗さはまったく見えない。吹っ切れたふりをしているのかもしれないが、血色がいいというより、機嫌が良いように思えた。


「いいことでもあったんですか?」

「えっ!? わ、わかる?」


 やっぱりあったのか。恥ずかしそうに両手で頬を包み込むが、良いことを思い出したのか顔が赤くなった。なんとなくだが、想像が付いて、気が抜ける気がした。安堵したのだ。


 そうか。通じ合えたんだな。


「私たち、私と、エヴァ、両想いだったの」

「おめでとうございます。良かったですね」

「反応薄くない?」

「いつになったらお互い気持ちを確かめ合うのか、気になってたんですよ」

「……なによそれ。知ってたの?」

「見てれば分かりますよ。お二人とも、すれ違ってばかりだったから。どうにか丸く収まらないかって、心配してたんです」


 想いがあっても、婚約があるから言えないのだろうと察していた。お互い想い合っていても、状況が悪すぎた。それもひとまずは落ち着いたから、エヴァリスト様が想いを伝えたのだろう。本当に良かった。

 クロディーヌ様は不服そうな顔をしたが。お互い気付いていなかったようだ。側から見ていれば分かるのに。いや、俺たちもそうだったか。


「それでだけど、これからのことをどうするか」

「まだ、いい案が浮かんでいなくて」

「本当に平民として生きていく気ならば、一つだけ手があるって言ったら、どうする?」

「あるんですか!?」


 早く教えてほしい。できることならばなんでもやると前のめりになれば、クロディーヌ様は少しだけ間を置いた。


「死ぬのよ」

「は?」


 つまり死ねってことか? 俺に? 父親となる俺を亡き者に??


「本当に死ぬわけじゃないわよ。バカね。死んだことにするのよ」

「死んだことに??」


 頭が回らない。なにをどうする気なのか、俺には想像できなかった。

 クロディーヌ様はその方法を教えてくれる。聞いていくうちに、俺は自分の心臓の音が聞こえてくるようだった。

 この方法ならば、逃げられる。クロディーヌ様とエヴァリスト様に多大な迷惑を掛けることになるが、これが可能ならば、逃げることはできる。


 駆け落ちに、現実味が増した。


「これは、シャルリーヌが考えたのよ」

「シャルリーヌ様が、ですか? エヴァリスト様が考えたのかと」

「エヴァはあまりいい顔をしなかったわ」


 それもそうか。クロディーヌ様に、シャルリーヌ様のふりを、一生しろというのだ。そう考えれば、エヴァリスト様がこんな案を出すはずがない。けれど、シャルリーヌ様だって、考えたくない案だったに違いない。重い決断になる。クロディーヌ様にとって、エヴァリスト様にとって。


「言えずに悩んでいたようだけれど、話を聞いて、いい案だと思ったの」

「入れ替わって生きるんですよ? お嬢様はそれでいいんですか?」

「もともと、いつも入れ替わってたでしょ。名前が変わるのは慣れるまで時間が掛かるかもしれないけど、入れ替わってた時と変わらないと思えば問題ないわ」

「ですが」

「他に案があるの?」

「それは、ありませんけれど」


 一度、正直に打ち開ければ良いのではないかと考えた。正直に打ち開ければ、旦那様も自分の孫を思って、許してくれるのではないかと。きっと、シャルリーヌ様は許してもらえる。だが、俺は? 許されないとなれば、死ぬことになるかもしれない。シャルリーヌ様もそれを危惧していた。

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