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プロトタイプ POL000 5

『父さん……お父さん……』

 お前の声をずっと忘れていた。

 いや、そう思っていた。


 だが、本条燕のPOL000と会ってから思い出していた。

 翼がどう笑って、翼がどう怒って、翼がどんな目で自分を見ていたか。


 中山和彦は目を開けると心配そうに見ている七滝時也と三見佑介を見ると

「ほん、じょうは? 無事なのか?」

 と聞いた。


 三見佑介は笑むと

「今、東京に行ってます」

 と告げた。


 中山和彦は笑むと

「そうか、燕は……翼だったんだ」

 と言うと再び眠りに落ちた。


 その言葉に三見佑介は驚いて息を飲み込んだ。

 そう、それは県警本部長が言った言葉だったからである。


 ……POL000は中山翼の脳のスキャンニングデータを利用したAIロボットだ……

「人類の行く末を判断するためには人間に近い判断力がいるということでより人間に近いPOL系ロボット警察官を作るための一つの方法として脳のスキャンニングデータを利用してみたということだ」


 中山課長の息子だったので

「課長に託したということだ」


 それを聞いた三見佑介は

「数年前はプログラム技術が追い付いていなかったが、今は……あそこまで成長していたんだな」

 と言い

「だが、ループに入ったということは、やはり、プログラムで人間の思考の再現は無理だということか」

 そうするとPOL系ロボット警察官は少し変わる形になるか、と呟いた。


 正に三見佑介の考え通りに警察庁ではPOL000の今回のループによるショートを重く見て現在のAI技術に疑似的な人格プログラムを施すことにしたのである。


 それによってPOL001から047が生まれるのであった。

 警察庁長官は正常に戻ったPOL000を座らせて窓を見つめていた。

「さて、中山和彦がどう出るかによってPOL000……いや、本条燕、お前の行く先を決めることにする」


 燕は敬礼をすると

「はい」

 と答えた。


 中山和彦は同じ時、個室で暫く療養しながら燕のことを考えていた。

 警察庁へ行ったまま帰ってくる様子がないことが気になっていたのである。


「だが、迎えに行ったところで……俺は15年間放置してきた息子の代わりにするだけになる」

 

 それに殆ど家に帰らなかった父親を息子がどう思っていたかなど容易に想像がつく。

 中山和彦はベッドを少し起こして身体を座らせながら窓の外の光景を見つめた。


 その時、看護婦の一人がそっと部屋に入ってきたのである。

「申し訳ありません。実はご相談したいことがあります」


 それは病院に入院している子供が誘拐されたという事件の相談であった。警察へ直ぐに知らせる必要がある内容だが子供を誘拐したのは実の父親で母親は息子を病院に入院させたまま殆ど訪れることはなく金だけを受け取っていたとのことであった。


「先も付き合っている男性とやってきてその男性は子供なんて父親に渡しておけって、そうしたら母親が養育費を貰うのに子供が必要だって……金がタダでもらえる金の成る木を捨てるの? ってもう聞いていられなくて……警察に言えばあの女性のところへまた引き取られると思うと悠君が可哀想で」


 中山和彦は腕を組むと

「しかしその悠君の病気も心配だと思いますが」

 と聞いた。


 彼女は頷き

「薬は持って行っているみたいなんですけど……」

 と告げた。


 中山和彦は息を吐き出すと

「どこへ行ったかはわかりますか? 話をしようと思います」

 と告げた。

「このまま誘拐では悠君と言うことは施設か母親の元にしか行かざる得ない」


 彼女は少し悩んだものの

「わかりました」

 と言うと立ち去った。


 夕方に彼女と父親と悠と言う子供が中山和彦の元へとやってきた。子供はギュっと父親を守るように立っており中山和彦を睨んでいた。


 恐らく引き裂かれるのではないかと思っているようである。

 父親は子供の頭を軽く撫でて

「悠、この人はお父さんとお前が一緒に暮らすために力を貸してくれる人なんだ」

 と告げた。


 悠と言う子供は目を見開くと

「ほんと? あのね、あのね、俺、お父さんと一緒に暮らしたいんだ」

 と告げた。

「お母さんは全然来てくれないし……来ても直ぐ帰っちゃう。それにお母さんはお金が欲しいだけなんだよ」


 父親はそれに

「悠、母さんのことをそんな風に言ってはダメだ。だが俺はお前と一緒に暮らせるように頑張るから、もう少し我慢してくれ」

 と告げた。


 中山和彦は彼らを見て

「申し訳ないが看護婦さんとお父さん、お二人に話を聞きたいのでお願いできますかね。お子さんの気持ちはわかりましたので」

 と告げた。


 看護婦の女性は頷くと

「じゃあ、悠くん部屋に戻ろうか。良い子にしていたらきっとお父さんと暮らせるよ」

 と告げた。

 子供は戸惑いながらも頷いて

「おじさん、おねがい!」

 と言うと手を振って立ち去った。


 中山和彦は男性を見ると

「余程いい父親なんですね」

 と告げた。


 それに男性は首を振ると

「いや、妻が他の男を作って悠をほったらかしにして病気になるまで仕事仕事で……でもそうなって家に帰って気付いたんです。自分がどれほど甘えていたか、そして、子供と向き合うことの大切さを」

 と告げた。

「向き合って心を見せれば悠は答えてくれた。今はとても大切で、あのまま諦めてしまわなくて良かったと思っています」


 中山和彦は笑むと

「そうですか」

 と答えた。

「俺はその前に翼を失ってしまった。いや、失って始めて気付いた」

 どうしようもない男だ、と心で呟いた。


「俺から言えることは準備を整えて民事をすることです。看護婦さんの話では奥さんには既に男性がいて養育費はそちらで使われているようだ。貴方は親権を取り戻すことと病院に直接入院費を入れるという方向で彼女にお金を渡さないようにする」


 男性は頷いた。

「しかし、親権は母親が有利になっています」


 中山和彦は頷き

「確かにそうですが、幾つかの条件が揃えば父親に親権を移すことが出来る。看護婦の方が心配しているように母親が子供をただ金の成る木にして支払いも滞っていることを書類で用意してください。養育を払い続けている書類とその支払いが滞っている証拠。そして、支払いを病院の入院費として払うと切り替える形で提案することをお勧めします」

 と告げた。


 男性は真剣に頷いた。

「わかりました」


 中山和彦は最後に

「そして一番重要なことは……息子さんをずっと大切にすることです。失ってからでは遅い」

 と告げた。


 男性は微笑み

「はい、これからも息子と向き合っていこうと思います」

 ありがとうございます、と告げた。


 中山和彦は男性が出て行き入れ替わりに入った看護婦に女性の発言の証言と支払い滞納についてのキッチリとした書類をそろえることを告げた。


 数カ月後に女性は支払いが病院に変わるとなると子供を直ぐに手放し浮気をしていた男性と消え去ったということであった。


 中山和彦は退院のあいさつに来た悠と言う子供と父親に笑みを見せた。

「仕事で家に帰らなかったお父さんを怒ったりはしなかったのか?」


 悠と言う子供は笑むと

「うん、寂しかったし、つまらなかった。でも、お父さんが俺のために一生懸命働いているってわかってたから……学校のお父さんのお仕事を見に行った時に一生懸命なお父さんを見て俺、お父さんありがとうって思ったよ。でも、今お父さんが長い時間いてくれるのももっと嬉しい」

 と答えた。


 その時、ちょうど七滝時也と三見佑介が姿を見せた。

 中山和彦は入れ替えるように出て行く親子を見送り二人を見た。

「何かあったのか?」


 七滝時也と三見佑介は顔を見合わせて七滝時也が

「課長は本条を迎えに行くつもりはないんですか?」

 と聞いた。


 三見佑介は息を吐き出すと

「POL000、本条燕は……課長の息子さんである中山翼くんの脳スキャンニングデータを利用しているそうです。つまり、翼君のコピーです。あの子供のように翼君は貴方をちゃんと見ていたんじゃないんですか? そうでなければ本条が貴方を警察を……敬礼を癖にするようなことをしないと俺は思います」

 と告げた。


 ……課長、逃げているのは貴方です。向き合ってください……

「本条と」


 中山和彦は驚いて目を見開いた。


 二人は笑むと敬礼をして立ち去った。中山和彦は一人病室のベッドの上で外を見つめた。

「本条は翼の……」


 燕を見ると息子の翼を思い出した。何故かずっと気になっていた。いや、翼が生きていればの年齢を模した姿だったのでそう重ねていただけかと思っていた。


 息子に何かしてやっただろうか?

 息子は父親である自分のことをどう思っていただろうか?


 何もしてやっていない。

 きっと見限られていた。


 そんな思いが自分を受け入れるPOL000……本条燕の態度と重ねることで救われようとしていただけだと思っていた。


 そして今自分はその燕にすら背を向けようとしている。


 中山和彦は目を細めて赤く染まる空を見つめた。

「翼……お前の心ではなくて記憶を受け継いだ燕と向き合うことでもう一度チャンスを貰ってもいいだろう? 俺は良い父親じゃなかった。人々を守っていると思いながら、たった一人とお前にずっと背を向けてひどい仕打ちをしてきた。だからこそ、今度は良い父親になりたいと思っている」

 いい父親に慣れない男が良い警察官になれるわけがない。と笑みを浮かべるとゆっくりとベッドから降り立った。


 身体はまだ痛いが、それでも

「今度こそ、間に合わないとな」

 と中山和彦は呟き看護婦に声をかけて止めるのを聞かず病院を後にすると東京へと向かった。


 追いかけるように東の空から宵闇が迫り世界を夜へと誘っていた。


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