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SPRING  作者: SORA
7/8

流しそうめん大会

「まあ、こんなにたくさん」

「どうしたの?」

母さんは箱の中身を見て驚いた表情をしていた。

「お歳暮でね、こんなにたくさんそうめんをもらったのよ」

俺は箱の中を覗いた

確かに、そうめんの束がたくさん連なっていた。

「これから、毎日そうめんになりそうね、」

「えーイヤだよ、なんか買って来ればいいじゃん」

「仕方ないでしょ、贅沢言うんじゃありません」


 旅館に着くと、女将さんが話しかけてきた。

「和泉君、仕事の前にこれを書いてちょうだい」

女将さんは俺に短冊を手渡した

「何ですか、それ」

「明日は七夕ですからね、願い事を書いたら、ロビーの前の笹の葉につるしておいてね」

「これって、お客さんがやるやつですよね」

「まあ、いいじゃない」

「もしかして誰もやってくれないから僕にやらせようとしてるんですか」

「いいから! やりなさい!」

「あーはいはい、分かりましたよ。」


 ちょうどその頃、社長は館内をバタバタしていた。

「彩花!彩花はどこにおるんじゃ!」

「うーむ、どこにもおらん。いったいどこに行ったんじゃ?」

「仕方ない、とりあえずひとっ風呂浴びるかのう」

社長は彩花を探すのをあきらめ、のれんをかき分けて温泉の中に入った。社長が更衣室まで入った時、浴室の扉がガラガラッと開いた。

「はぁーさっぱりした。」

「え?」

彩花は目の前の人影に気づいた

「あっ彩花!」

「キッ! キャアアアアー!!」

彩花は手に持っていた桶を思いっ切り社長に投げつけた


「ダハハハハハッ!」

俺は社長室の椅子に、不貞腐れた様子で座っている社長を見て大笑いした。

「じゃあそのおでこの絆創膏はは彩花さんに桶をぶつけられたときのものなんすね!」

「ジュニア! 笑い事じゃないぞ! 全くなんでわしがこんな目に合わなければならないのじゃ!」

「自分が悪いんでしょ、この変態!」

「彩花さん! 社長さんも故意に入ったわけじゃないんですよ! 言葉を慎みなさい!」

「そうだぞ、小さいころはよく一緒にお風呂に入ったじゃないか」

「えっ? 社長どういうことですの?」

女将さんは引くような目で社長を見た。

「ちょっ、ちょっと、何言ってんのよ!?」

「あーいや何でもない間違いじゃ ガハハッ」

そっか、女将さんはまだ彩花さんが社長の娘ってことを知らないのか。

「でも、社長、どうして女湯に入っちゃったの?間違えると思えないけど」

「ああ、それがのう、今日の朝から女湯が給湯器の故障でお湯がでなくなってしまってのう、治るまではしばらく男湯を時間制で区切って営業するしかないんじゃ」

「それで、いつも男湯のところが女湯になってたから間違えてしまったんだね」

「そこでじゃ! お客様にご迷惑をおかけしたお詫びと言ってはなんなんじゃが、ここで一つ面白い企画を立てることにした」

「面白い企画?」

和泉と彩花は互いに目を見合わせた。


「はぁーあ」

女将さんは大きくため息をついた

「ただでさえ、人手不足だっていうのに社長も大変な企画を考えてくれたわね」

「ええ、本当に」

俺は大きくうなずいた。

「えーでも私は楽しみだなーだって湯浅野旅館全体を使って流しそうめんをするなんてなんだか夢みたいでワクワクします」

「いいですね、彩花さんは気楽で」

「ええ、親も親なら子も子ですね」

「えっ?どういうこと和泉君?」

「あっいや」

「和泉! どういう意味よそれ!」

「なっ何でもありません!」

和泉はその場から逃げ出した

「コラ!待ちなさい!」

「うーん、どうして彩花さんが怒るのかしら?」



 翌日、今日は土曜日、湯浅野旅館は朝から、人の出入りが多く、随分とガヤガヤした様子であった。

一体この人たちはどこから来たんですか?

俺は大きくて立派な竹を運ぶ黒服を着た男たちを指さした。

「さあ、それが私も分からないの、でもいつもこういう大規模なことをするときは、とこからともかく飛んでくるのよね」

「はあ」

彩花さんの言葉からするに、こういうことは今までもたくさんあったのだろう、相変わらず、湯浅野家は大胆なことをする一家だ。

「社長、ここから始めると、水の流れが止まってしまいます、やはり外でやるべきではないでしょうか?

黒服の男が困った顔で言った。

「ダメじゃ、外でやるのでは普通過ぎる、中庭をうまく使えば、水の流れを作ることができるはずじゃ」

「えー! そんな無茶な!」

「無茶ではない、わしの頭で想像できたのだから、実際に作ることも可能なはずじゃ」

社長は相変わらず滅茶苦茶だ、でもそれを実現させてしまうのもこの人の恐ろしいところである。


 翌日、俺と彩花さんは社長室に呼ばれ、そうめんと大きな鍋を受け取った。

「二人とも、二階の休憩室にガスコンロがある。その部屋が流しそうめんのスタート地点じゃ、そうめんが茹であがったらそこから流しなさい、あーあとミニトマトもちょくちょく流すんじゃぞ」

さっそく俺は休憩室にある洗面台からホースをつないで、水を流し始めた。

竹筒に流れ出した水は、廊下を横切り、窓を通り抜け、中庭を緩やかに下って、池にどぼどぼとこぼれ落ちた。

「こちら和泉、水は流れてますか?」

俺はトランシーバーで中庭の女将さんに連絡した

「ええ、今来ましたわ」

「よし!」

「いい感じね」

「彩花さん、麵はどうですか?」

「うん、そろそろ茹で上がるかな」

一階の方が騒がしくなってきた、お客さんが集まってきたようだ。


 ところが、流しそうめん大会が開始して30分後、女将さんから電話がかかってきた。

「はいもしも」

「ちょっと! 和泉君!いつになったら麵が流れてくるんですか!?」

「え! もうとっくに流してますよ、ていうかもうほとんど残ってませんよ」

「えー! じゃあなんでこっちに麺が来てないんですか! お客さんたちはずっと待ってるんですよ!」

「そんな馬鹿な」

「おかしいわね、ちょっと廊下を見に行きましょ」

「ええ」


 休憩室をでて、俺は衝撃の光景を目の当たりにした。

「あっ美紀ちゃん」

「おうっす、お前ら頑張ってるか?」

「そういうと美紀先輩は流れてきたそうめんを大量につかみ、つゆの中に入れた」

「えっ!」

そして豪快に口を大きく開けそうめんをほおばった。

「まっまさか、美紀ちゃん、もしかして今まで流れてきたそうめん全部食べたの!?」

「ああ、そうだよ、お腹すいてたし」

「え……」

俺は彩花さんと目を見合わせた。

「もう流れてこないのか?まだお腹すいてるんだけど、ちょっと少なくないか?」

なんて人だ、大きな鍋で10人前はゆでたはずだぞ……。

「通りでそうめんが流れてこないわけね」

彩花は頭を抱えた。

「そういえば、先輩、ミニトマトは食べないんですか?」

「トマトは苦手なんだもん」

「好き嫌いは良くないですよ」

「今そんなことどうでもいいわよ!」

「あーもうどうしましょう、そうめんはもうほとんど残ってないし」


 俺と彩花さんはお客さんに謝りに行くためにとぼとぼと階段を下った、一階にたどりつくと、ロビーの前にどこかで見かけた親子がいた。そうだ、この前の迷子の子だ。

「どうも、あの時は娘がお世話になりました。」

女の子のお父さんは俺たちに深々と挨拶した。

「お兄ちゃん、そうめんは?」

「ごめんね、もうそうめん無くなっちゃって、ていうか食べられちゃって」

「ウッウエーーン!」

「ああ泣かないで」

泣きたいのはこっちの方だよ。

「うーんどうしましょう」

中庭にはたくさんの客がそうめんが流れてくるのを待っていた。

「そうだ! 彩花さん少し待っててください」

「え?」

「とりあえず、二階の休憩室に戻って、お湯を沸かしといてください」

「えーどうして?」

「いいから!」

「ちょっと! 和泉どこに行くの!?」


 一時間しても麺が流れてこないことに、さすがにお客さんもしびれを切らしていた、中には女将さんに詰め寄り、代金を返還しろと騒ぐ人もいた。

「皆様、申し訳ございません、そうめんが流れてくるまでもうしばらくお待ちください。」

「ああ、困りましたわ、和泉君はいったい何をやっているのかしら。」

「女将さんあれ見てください」

「あっ!」

「流れてきた!」

その声を聞いて、中庭にまた人が集まってきた。

俺はガラス越しに中庭を眺めた。お客さんたちは竹筒に集まり、おいしそうにそうめんをすすっているのが見える。


 急遽開催された流しそうめん大会は、客からも反応が良く、また、やってほしいという声であふれた。そして今では、たくさん短冊が殺風景な笹に、色どりを持たせている。

「一時はどうなるかと思ったけど、お客さんに喜んでもらってよかったわ」

「そうですね、もう美紀ちゃんは監視しとかないと」

「ほんと、困った子ね」

「そういえば、彩花さん」

「はい」

「そうめんがもうなくなったって言ってたけど、あの後どうしたの」

「それは……」

彩花は笹を眺めた。和泉の短冊には一言「バレませんように」とだけ書かれている。


 次の日、俺は朝から部活に出かけようとしていた。

「じゃあ行ってきま」

「恭介!!」

家の玄関で、母が鬼の形相で立ってた

「ちょっとこっちに来なさい!」

バレるのは時間の問題だったようだ。


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