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SPRING  作者: SORA
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迷子の女の子

第五話

ある夏の日、東京都千代田区にそびえたつ湯浅野グループ本社、34階にある大会議室には役員陣が招集された。

和泉の父(何故重役ばかりの会議に俺が出席しなきゃならないんだ…)

和泉の父は会議室の重々しい空気に圧倒され、手を握りしめて緊張をごまかす。

社長「それでは、これより湯浅野グループ経営会議を始める。まず、初めに先月オープンしたばかり、湯浅野旅館本館に隣接し、子供からお年寄りまで楽しめる遊園地、湯浅野アミューズメントパークについてだが、」

幹部B「…」

幹部C「…」

「どうしたみんな、そんな深刻な顔をして…」

幹部A「お言葉ですが、社長、このテーマパークに多額の資金を費やしたおかげで、わが社の経営は火の車です。」

「何を言う!?全て上手くいってるではないか!?」

幹部B(そうだそうだ!直近四半期の決算もマイナスだったんだぞ!)

幹部A「このままでは先代が長い年月をかけて築き上げてきた湯浅野グループが崩れてしまいます、まあ私は別に構いませんが…」

「なに!?構わないとはどういう意味じゃ!?」

ニタニタ笑う幹部Aに社長は痺れを切らした。

幹部C「まあまあ、社長、単純にお聞きしたいのですが、なぜ熱海ではなく箱根を遊園地のコンセプトにしたのですか?」

「うっうむ、良い質問だ、それはだな、どっちかしか行けないからだ。」

幹部C「はっはあ」

社長「この辺りに旅行へ訪れたとすると熱海に行ったら、箱根には行けないし、箱根に行ったら熱海には行けない。だから、どっちも同じ場所にあれば一回の旅行で熱海と箱根をどちらも楽しむことができるじゃろ」




大きなイヤリングが弾むように揺れている。なんだか今日の彩花さんはいつもより大人っぽい。

彩花「今日は誘ってくれてありがとう。」

「和泉って結構おしゃれな店知ってるのね」

「いえ、そんな…。」

「お会計1万2000円です」

和泉は長財布からクレジットカードを取り出した。

「これで お願いします」

「えっいいの?」

「気にしないでください」

「和泉…」

「ムフフ…彩花さん、そんなに見つめないでくださいよ~」

堺 (…)

「和泉君」

ドンッ!

英語の篠崎先生は机に思いっ切り、縦にした教科書をぶつけた

「は!?」

「彩花さん?」

篠崎先生「私は彩花ではありません」

みさき「ギャハハ!」





彩花は布団にくるまりながら、携帯をいじっていた。

彩花「あっ!」

画面をスクロールしていると、自分が幼いころパパに肩車をしてもらい喜んでいる写真を見つける

(フフッ、なつかしい…)

美紀「彩花って、ほんとに、パパのことが好きなんだな」

「えっ?」

「あっ、もうこんな時間!美紀さん仕事に遅れますよ!」

美紀(あっ、そらした)






(ああもう!いいとこで起こしやがって、せっかくいいムードになってたのに…)

妄想ばかりしてかわいそうな奴だとみんな思ってるだろう、でも、俺は実際に彩花さんに会えるし、話すこともできる、それに、それだけか…。

「ん?」

昼過ぎ、閑散とした湯浅野旅館のエントランスの前に、ちょこんとしゃがんでいる人影がみえた

三歳ぐらいだろうか、麦わら帽子をかぶって白いワンピースを着た女の子だ。

「こんなところで何してるの?」

俺はしゃがみこんで女の子と目を合わせた

「…」

「あのね…パパとママがいなくなっちゃったの」

「え!それは大変だ」

「何してるの?」

顔を見上げると彩花さんがいた、白のノースリーブを着て涼しげな顔をしている。俺はしばらく顔を見上げた

(そういえば現実でイヤリングをしているところはまだ見たことないな)

「何!?」

彩花は強い口調で答えた

「いや別に」

なんだかここ最近、俺への当たりが冷たい気がする

「この子、多分迷子みたいで」

「迷子じゃないもん!」

「えっ?」

「パパとママがいなくなっちゃっただけだもん!」

(うーん、それを迷子っていうんだよね)

彩花「ねえ、最後にパパとママを見たのはいつ?」

女の子は腕時計の針の、Ⅹを指さした

彩花「10時!?」

和泉(もう三時間近くここにいるのか。)

「パパはね、ロープウェイに乗って、それから、海賊船にも乗せてくれるって言ってたの。」

和泉「それってもしかして」

彩花「もしかして?」

「この子の両親は箱根の方に行ったのかも」

「えーじゃなんでお父さんはこんなところにこの子を置いて行ったの?」

「よし!行きましょう、箱根へ」

「ちょっと!?私の話聞いてる?」

「よく考えてみてください、ロープウェイに海賊船、これを満たす場所なんて箱根しかないでしょ。」

「でもこれから仕事でしょ、勝手に抜け出していいの?」

「今はそんなことよりこの子をどうにかしないと」

「うーーん」

女の子は目を輝かせて、喜んでいた。きっとこの状況に少しワクワクしてしまっている自分がいた。




俺たちは電車、小田原駅からバスを乗り継いで、とうとう強羅駅まで到着した、時計の針はⅡを指していた。

「ここから、ケーブルカーに乗れば、ロープウェイの乗り場にいけます、もしかしたらそこで待っているかもしれません」

「私、オムライス食べたい!」

「えっ今!?」

「パパとママ探すんでしょ、終わったら食べましょ」

「イヤだ!今食べるの!」

そういうと地べたにちょこんと座った

「うーん困ったわ」

「もしかしてお昼ご飯食べてないの?」

そう聞くと女の子はこくりとうなずいた。




「それでは、諸君、これを見たまえ」

そういうと社長は、会議室に湯浅野アミューズメントパークのジオラマ模型を秘書に持ってこさせた

「まず、ロープウェイは、本物よりは少し小さいが、最大5人を収容することができ、湯浅野旅館本館を上から見ることができる。そして、パーク中央にそびえる火山の前まで移動することができるんじゃ。」

幹部C「料金の方は?」

秘書「料金は大人一人1000円、子供(18歳未満)500円です。」

幹部A「ほーう…」

幹部C「社長、実際の評判はどうですか?」

「うむ…まっまあ今のところは利用者は少ないがこれから宣伝していけば、人気アトラクションになるじゃろう」

幹部B(誰がこんなものに乗るというんだ、せめて、熱海の海が見える位置に作れば採算は取れただろうに、だいたい、一人千円は取りすぎじゃないか?)






駅前にあるお昼時を過ぎたレストランは、ほとんどお客さんはおらず、店内は静まりかえっていた。女の子はオムライスを美味しそうにほおばっている、よほどお腹が空いていたのだのだろう。


「フフッ 口にケチャップついてる。」

彩花さんはそういってお手拭きで口周りのケチャップをふき取った。

そのしぐさが、なんだか、お母さんのようだった。


「ほら、そろそろ行かないと!日が暮れちゃう。」

和泉「そうですね、すいません、お会計お願いします。」

店員が俺たちの席に近づいてきた

「2245円です。」

和泉「はっ!」

俺はデジャブを感じた、この状況、夢と同じだ!!

「彩花さん、ここは僕が」

「いいわよ、私が払うから、和泉お金持ってないでしょ。」

「えっ…」


俺はショックで目の前が真っ黒になった

「お兄ちゃん?」

和泉「…」

彩花「じゃこれで」

「はい、ここにタッチお願いします」

店員「ありがとうございました。」




俺たちが乗るロープウェイがゆっくりと近づいてきた

俺と彩花さんは向かい合って座った

「お兄ちゃんさっきからどうしたの?」

「大丈夫だよ、お兄ちゃんは今そっとしてほしいんだ、だから、お姉ちゃんと遊んでね」

女の子は彩花の膝にちょこんと座った。

彩花(もう、そんなに分かりやすく落ち込まれたら、こっちが悪いみたいになるじゃない)


俺たちを乗せたロープウェイは山の中腹を横切り進んだ。遠くから湯気が立ちあげているのが見えた。


頂上に着くなり、女の子は元気よく走り出した

「あー私これ食べたい!」

女の子は黒卵の売店を指さした

「ダメよ、これ以上寄り道しちゃ」

「イヤだ!食べるの」

彩花(も~う、わがままな子ね)

和泉「まあまあせっかく来たんだし」

彩花「すいません、じゃあ一袋ください。」

「はい、500円です」

チラッ

彩花は和泉に目配せした

和泉「…?」

彩花「…」

店員「あの…お会計は?」

和泉「彩花さん、財布は?」

彩花「!?」

彩花(私が払うの!?)

彩花は財布からカードを出した





「ふーん、箱根にあるものに限らず、ジェットコースターとかもあるんですね」

会議室では幹部たちがジオラマの周りを囲んでいる。

ガガガガガガガッ…  ゴトゴトッ…  シャーーァ…

Nゲージのジェットコースターはゆっくり坂を上り、勢いよく坂を駆け下りた

幹部A「見事な急降下ですね~社長、まるでわが社の行く末を見ているかのようです。」

「貴様、何不謹慎なこと言ってるんだ!?」

幹部C「まあ落ち着いて」

幹部C「和泉君は何か意見あるかね?」

和泉の父「はっはい!」

「ええと、じゃここにある出店では何を売ってるんすか?」

社長「流石和泉君、いい質問だ。ここでは湯浅野アミューズメントパーク名物の白卵を販売しておるんじゃ、もちろん火山の熱を利用しているんじゃ」

和泉の父「白卵ですか」

幹部B(白卵って…それただのゆで卵じゃないか!!)




はいこれ!

俺は女の子にキャラクターの風船を手渡した

「わー!ありがとうお兄ちゃん!」

「どうしたのこれ?」

「そこで配ってたんですよ」

そこには蘆ノ湖遊覧船のり場があった。俺たちは迷子のことはすっかり忘れて箱根観光を楽しんでいた。


「ねーえ、あれやって」

女の子は肩車している家族を指さした。

「よーし!」

「キャーお姉ちゃん、助けて!」

「連れ去られる~」

「ちょっと!二人とも!」

俺がくるくる回ると、女の子はキャーキャー喜んだ

フフッ

彩花(!!)

彩花はパパに肩車をして喜んでいる女の子が幼いころの自分に重なって見えた

(和泉…なんだかこの子のお父さんみたい…。)

彩花は無邪気に笑う女の子を呆然と見つめた

「じゃあ彩花さん、二人で乗ってきますね~!」

「あっ!ちょっと待ちなさい!」

「キャー!」

「あっ」

女の子は握りしめた風船のひもを手放してしまう。

風船は空高く飛んで行った


「ウッ!ウェンッッ!」

「ちょっと!和泉!」

「ああ、泣かないで、また買ってあげるから。」




俺たちは、ぐずる女の子を慰めながら、なんとか遊覧船に乗ることができた

和泉「寝ちゃった・・・。」

海賊船に揺られながら、女の子は彩花さんに抱かれながらスヤスヤ眠っていた。

「これからどうしましょ、結局この子のお父様はどこにもいなかったわね。」

和泉(うーん…)

「あー!!分かった!」

彩花「えっ!?」

「あるじゃないですか、ロープウェイがあって海賊船に乗れるところが!」

「それって?」

「まっまさか!?」




女将「今、旅館の従業員総出でパーク内を捜索中です。」

女の子のお父さん「娘も遊園地に行くって楽しみにしてたのに、どこに行ってしまったんでししょう

おかしいな、そう遠くには行ってないはずなんですけど」

女将(本当にあの遊園地に遊びに来たなんて、随分変わった家族ね…)

「従業員女将さん!女の子見つかったそうです!」

「え!?」

「どこにいたの!?」

「それが…本当に箱根に行ったみたいで」

「ええ!?」




二時間後・・・

「あっパパ!」

「ナナちゃん!」

「いったいどこに行ってたんだ、心配してたんだぞ」

女将「あーよかった!」

「あのね、あのお姉ちゃんとお兄さんがロープウェイに乗せてくれたの、それから、黒卵をたべて、そのあとは船に乗って・・あれどうして私ここにいるの?」

「僕たちはもう行きましょうか」

「フフッそうね」

無邪気に話す女の子をよそに俺と彩花さんはその場を立ち去ろうとした

「二人とも、ちょっと待ちなさい!」

彩花・和泉(ギクッッ!)




女将さん「あの子を連れて一体どこに行ってたんですか!?突然いなくなって大騒ぎだったんですよ!」

和泉「だってパパがいなくなったって言ったか…」

「あの子のせいにするんじゃありません!仕事もせず勝手に出歩いたりして!何を考えているんですか!?」

和泉(なんだか大変な一日でしたね、彩花さん)

彩花(でも…楽しかったね、和泉)

二人は目を合わせた。

そんな、彩花さんの笑った顔を見て、なんだか少し安心している自分がいた。

「ちょっと!二人とも聞いているんですか!?」

和泉「はい、すいません」

彩花「ごめんなさい」

                                            続く


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