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シャッフルデイズ

作者: 蟹 卓球

「月水金金水土土」これが私にとっての直近7日間過ごした日々の曜日だ。


 私が眠ったあとに目覚めるのは一般人がいうところの明日ではない。私が眠って次に目を覚ましたときにはランダムな日付で目覚める。


 だから、私にとっては5日連続学校や仕事に行ったからと言って次の日が休日とは限らないし、運が良くて42日連続で休みだったということもある。


 それ故、テレビでやっている明日の天気予報なんて私にとってはなんの意味もなさないのだ。


 私の日課はまずカレンダーを見て今日の日付を確認すること。それによって今日の自分は何歳の何曜日で、今日は何をするかということを理解している。


 幼稚園、小学生、中学生、高校生、大学生、社会人の日々を行き来しているため、私が人の名前と顔を覚えていられることなんてできないはずだが、私が小さな町に住んでいるおかげか、人間関係がほとんど変化しなかったため、幸いにも老いにさえ注意すれば90%ほどの確信を持って人の名前を呼ぶことはできた。


 仕事に関しては私がメモを書く習慣をつけるようになってから、問題なくこなせるようになった。


 よく聞く話では、人が突然小学生に逆戻りした場合、学校の授業は退屈であるというが、実際のところ自分はそこまで退屈であるとは思わなかった。


 自分の体の年齢に合わせて勝手に頭のネジが緩んだり締まったりしてくれているからであるかもしれないし、単に自分の感覚では小学生として6年分の日々を過ごしたと感じているわけではないからかもしれない。


 私がこの生活をしていて気付いたこととしては、その日の過ごし方によって、その先の日付で見た未来が変わったということはないということだ。


 例えば、自分は20xx年7月8日に中学校で陸上部に所属していた記憶があるのだが、その年の春に、ここで自分が部をやめたらどうなるんだろうと思って退部届を出そうと思った日がある。


 しかし、結局自分は退部届を出さなかった。というより出せなかった。


 自分の臆病な性格のためか、「退部届を出したことによってその先の自分が知っている楽しい未来もなくなってしまうのではないか」という考えが頭によぎってしまい、結局その日は退部届を自分のカバンにしまい込んだままベッドで眠り込んでしまった。


 私には”明日やろう”なんて考え方が通用するはずもないのに。


 そもそも、一日の過ごし方だけで変えられる未来なんて安定を望む人間にとってはどれもリスクのある選択になる。きっとそういう理由が積み重なって自分は漫画で見るような「未来を変えよう!」という思考にはならなかったのだ。


 私が今まで過ごしてきた中で一番楽しかった日は小学校の修学旅行だった。その日だけは夜ふかしをしたため、修学旅行を一日だけで途切れさせることなく、フルで楽しむことができた。夜通し小学校の頃の友と話をして夜ふかしをしていたため、二日目の自由行動の時間に睡魔が襲ってきてフラフラだったことや、その次に目覚めた日が高校生のテスト期間で急に現実に戻されたことを除けば。


 それまでは私の生活は意外と快適だった。

 学生では味わえないような自由な日々と

 学生でしか味わえないような青春の日々を

 バランス良く過ごすことができるからである。


 私はこの奇妙な状況におかれながらも途切れ途切れの日々の生活に満足していた。


 そして今日も私はベッドで眠る。





 ****





 数日後…いつからだろう私の日常が一変したのは。


「ピピピ…ピピピ…」といつものように鳴る目覚まし時計の音ではなく、その日は周りのざわめくような声の中で目を覚ました。


「東谷さん…東谷さん…東谷瑛さん!!」父の声でも母の声でもない聞き慣れない若い女性の声に意識が戻る。


 その時、私の体に今まで経験したことのないような痛みが走った。


 その耐え難い痛みに私が目を開けられずにいる間に事態は急激に進行していたようで、先程の女性だと思われる人が私から離れるようにバタバタと走る音、しばらくして何かを報告したような声が聞こえたと思ったら、増えた足音が私の方へ向かってくるのが聞こえた。


「カッ、カッ、カッ」私の方へ向かってくる足音の主の一人と思われる男の声から私は次のような声を聞いた。


「まさか、あの事故から目を覚ますなんて…」


 私の中に湧き上がる疑問の中、私は重たいまぶたをやっとの思いでこじ開け、周りの状況を確認する。


 少しずつピントが合ってくる私の目は、以前保健室のベッドで横になったときに見たのと同じような真っ白な天井を映し出した。


 突然、私の視界は銭湯でのぼせたかのようにぐるぐる回り、私の意識は飛びそうになる。


 消えゆく意識の中で、私は誰かが部屋に入ってくる気配を感じた。


 しかし、私の意識はその日、戻ることはなかった。





 *****





「ピピピ…ピピピ…」私は冷や汗とともに目を覚ます。もっとも、それが私のいつも通りの暑苦しい部屋のせいなのか、私が先程見た悪夢のせいなのかは分からないが。


 いや、むしろ夢であってほしいと思いたい。私、東谷瑛がこの先の未来、医師に目を覚まさないと思われるほどの事故に合うなんてことが起こるなんて信じたくはないのだ。


 しかし、あのリアルな痛み、感触、そして私の性質を踏まえて考えると、それが現実に起こることであると認めざるを得ない。


 そのため、私のこれまでの人生経験から、一度体験してしまうと、その未来が起こるまでの過ごし方によってその未来が変わり得ることはないということを知っていたが、僅かな希望を捨てきれずその日から、私は交通事故、爆発事故、地震、火災など、あらゆる事故に気をつけながら生活することになった。


 私がこの生活での一番の苦痛であったことは、あの悪夢の日が何月何日だったのかということを知ることができなかったため、いつも、自分が今日事故を負うのかもしれないということに怯えながら過ごさなければならなかったことだ。


 混乱の中で目覚めたため、あの日の私は日課の日付を確認することも、ましてや自分の年齢を確認するということもできていなかった。


 自分の成長に伴って時間が進んでいく者にはわからないかもしれないが、顔を見ることをせずに自分の体の年齢を知るというのは、体に大きな変化のある成長期を除いてはほとんど不可能なのだ。


 幸い、あの日は自分の体が成長期を過ぎているということを感じることができたため、自分が幼児として目覚めた日には安心して過ごすことができた。


「自分が事故に遭う可能性があるなんていうことは、いつの日にも同じであるはずなのに、それが私の体質を通して確実に起こることであると分かってしまうことでこんなにも怯えて過ごすことになるなんて…


 もしかしたら人は自分にとって都合の悪い未来を”不確実性”という言葉を使うことによって考えないようにすることによって正気を保っているのかもしれない」


 そんなことを考えながら自分はまたベッドで眠る。





 ****





 唐突にその日はやって来た。病室でのトラウマから立ち直ってきた頃の朝、40歳の私はいつも通りの日常を過ごそうとしていた。


 朝早く起きて、歯を磨いて、朝食を食べて、部屋着から着替えて、会社に行くために電車に乗ろうと駅の階段を下ろうとしていた時のことだった。


 その日は雨が降っていて階段が濡れていたからかもしれないし、原因の分からない筋肉痛が残っていたからかもしれない。


 はたまた、私が事故と聞いて一番最初に交通事故を思い浮かべる性格だったからかもしれない。


 ともかく、私は階段から足を踏み外して階段の下の踊り場まで転げ落ちた。そのことだけ覚えている。




「覚えていても仕方がない。すでに起こってしまったことなのだから」




 階段から転げ落ちて意識を失って、次に目覚めた私は新たな絶望に襲われた。


 というのも、気付いてしまったのだ。私が今まで40歳よりも上の年齢でベッドから起き上がった記憶がないのだということを。


 おそらく、あの病院で目覚めた日が自分の人生最後の日で、自分がそれ以上先の未来で生活することがないのだということを。


 そして、自分の人生は40年間で終わりだということを。


 その先の数日間、私はどのように生きていたのだろうか。きっと、死んだ魚のような目をしてただその日々を喰い潰すように生きていたと思う。




 ****




「だからこそ、驚いた。このまま何も起きずに終わると思っていたこの物語に新たなる展開が訪れるとは。」



「チュン チュン チュン」テントの布から溢れ出てくる日差しと鳥の鳴き声でその日の自分は目を覚ました。


 いつもとは違う状況下で目が覚めたことに戸惑った私であったが、一度冷静になり、まずは自分の枕元に置かれていた自分のと思われるリュックからスマホを取り出し、日付を確認する。


 スマホに映し出された日付は20yy年8月6日。私が47歳であるはずの日付だ。


 私は目をこすり、スマホに表示された日付をもう一度確認する。


 しかし、何度見ても20yy年8月6日。やはり、私が47歳であるときの日付だ。


 私は一人、テントの中で静かに高揚する。あの事故から回復することに成功したのか、前日に蹴り飛ばした小石が自分が事故に遭うという未来を変えたのかは分からないが、40歳までだと思っていた私の寿命がまだ残っているということが確定したのだ。


 テントの中には自分以外のものにもいくつかの寝袋が残っていたため、私は彼らを心配させないために、高揚が冷め止まないまま、テントの外に出た。


 テントの外には5人の自分と同じくらいの齢と思われる男たちがいて、彼らが言うには、自分は今自分が勤めている会社の同僚と一緒に登山に来ているということであった。


 彼らの顔は見たことがなかったが、7年も経てば、転職もするだろうと思い、その時は特に考えないでいた。


 顔を冷たい水で洗って、仲間が用意してくれた朝食を食べて、身支度をし、私達は登山を開始した。


 登山の間、同僚は会社での思い出話で盛り上がっていた。私はその話には参加できなかったが、自分の記憶がない7年間にあった出来事をその話から知ることができた。


 しかし、「山の天気は変わり易い」とはよくいったもんで、いつの間にか快晴だった空は曇天になり、雨がポツリポツリと降り出してきた。それでも構わず、私達は頂上に向かって歩みを続けていたが、

「ズルッ」斜面が急になって道も狭くなったところで私は足を滑らせバランスを崩してしまった。もともと、私が他の5人に対して遅れを取っていたのもあって、仲間たちの助けも間に合わず、私は登山道から外れ、斜面を転げ落ちた。


 仲間の悲鳴を背景に、私の体には浮遊感と衝撃が交互に加わる。”がりがり”と自分の身体が地面に削り取られる音がし、私の体に激痛が走る。目まぐるしく移り変わる視界には本来曲がらない方向に湾曲した私の腕と下半身が映り込む。混乱の中、自分の身体に最後の衝撃が走り、自分の身体はゆっくりと停止する。


 滑落後、しばらくは残っていた私の意識に他の5人が呼びかける「ひが…ひが…ひか…ひかり…火狩…火狩翔ー!!」「火狩ー!」「火狩翔ー!!」

「火狩翔⁉誰だそれ?私は東谷瑛だ」混乱する意識の中、私に一つの疑問が浮かぶ。


 しかし、消えゆく意識の中、最後に目に入ったのは、私の散乱した荷物の中から出てきた免許証で、そこには知らない顔の男の写真に加えて氏名の欄に”火狩翔”としっかりと記入されていた。





 *****





「ジリリリリン、ジリリリリン」聞き慣れない目覚まし時計の音に起こされて目が覚めた私はまぶたを擦る。目覚めた場所がまるで日本とは思えないような家の作りであっても私はやけに冷静だった。


 コツ、コツ私の居る部屋に人が近づく足音が聞こえる。足音が止まり、ドアが開く。


 部屋に入ってきた彼女は私にこう告げた

Goo()d m()orn()ing(), Nancy(ナンシー).」


 私はこれが3人目の人生だと理解した。

2作目です。

蟹 卓球でした

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― 新着の感想 ―
[一言] 次はどうなってしまうのだろうとハラハラしながら読ませて頂きました。 終盤で判明したまさかの事実にびっくりです。 そして最後の最後にまたどんでん返しが……! 自分がこうなってしまったら、と思う…
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