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0.悪役令嬢は前世の記憶を夢に見る

 その日、私は夢を見た。

 肌触りの良いシルクのネグリジェの色が気に入らないと我儘を言い放ち、ベッドに入れば布団がひんやり冷たいと喚き、「お休みなさいませ」と声を掛ける侍女の声が耳障りだと怒鳴り、そしていつものようにぐっすりと眠るはずだった。


 夢の中の彼女は疲れた目をしていた。そしてそれが過去の私だと気付いた瞬間、飛び込んできたのは前世の記憶だった。

 日本で生活をしていたこと。人間関係に疲れていたこと。生きるためだけのやりがいのない仕事。仲の悪い家族。自信のない自分。人に嫌われるのが怖い。人と深く関わるのが怖い。怖い、怖い寂しい寂しい寂しい……!



 「ただ、愛されたかっただけなのに」



 そう口にしたのは私?彼女?分からない。混ざり合って吸い込まれるように、意識が薄れていく。最後に目に入ったものといえば、すぐそばに落ちている一冊の小説だった。



 ――「まるで初めて会ったように感じませんわ」



 その小説は何度も繰り返し読んでいた。暗闇の中で、大好きだった小説の台詞が頭の中に流れ込んでくる。ただの小説なのに、凛とした鈴のような可愛らしい声が聞こえてきた。



 ――「もうあなたとは友達ではないの。あなたが裏切ったのよ」



 今度は刺々しい声だ。怒りに震える声が冷たく言い放つ。そうそう、このシーンはヒロインが可哀想で、だけど悪役キャラの気持ちを考えればヒロインだけに同情もできないシーンだった。

 そういえば漫画化するって作者が報告していたなと、ふと思い出した。そうそう、続編も出るとか。楽しみだな。



 ――「ダメだ!ならない!!」



 続いて叫ぶ男の声が響く。切羽詰まったような声に、このシーンは確か……と思い出す。悲しくて、切ないこのシーン。この後続く悲劇に、私は茫然としたことを思い出した。

 この小説のキャラ達が絵になったら、一体どんな姿だろう。きっと美男美女なんだろうな。



 ――「僕には……無理だよ」



 そして悲痛な声。悲しい、辛いという感情が伝わる。私が一番好きで、だけど嫌いなシーンだ。

 確かヒロインは桃色の瞳って書いてあったなとか、悪役の女はシルバーの髪だったっけとか、どうでもいいことを思いながら、私は再び眠るような感覚に包まれた。


 大好きな小説を夢に眠ることができるなんて、なんて贅沢だろう。しかも音声までついているのは、誰よりも一番にアニメを覗き見したようで、心が浮き立つ。


 だけど……そして急に現実を思い出して気持ちが萎んだ。あと何年この生活が続くのだろう。途方もない未来に、いっそのこと……と良からぬ妄想が広がる。そしてとうとう、意識がすっと消えていった。


 目覚めたら、別の世界だったらいいのにな。……そう、思いながら。

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