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章末 ささやかな対抗

 ザミルザーニ帝国の首都、ウラガーンは猛吹雪。

 太陽は雪に塗り潰され、不穏な薄暗さ。


 ペンタグラマ宮殿の中庭に、一人の女がいた。


──()が止まらない。

 透明な雫を横目に、スニエークはうつむいた。


 右腕は欠損し、雫が一滴、また一滴と垂れては消える。

 体内では、シキより受けた炎が暴れ回っていた。


 シキが土壇場で覚醒するなど、微塵も考えていなかった。

 踏み台にされた。全て、勇利ゆうりの差し金だ。


 スニエークの怒りに呼応し、風が鳴る。


 自身が生まれたヴェーチェル山。

 そして、カプノス山もこんな天気だった。と回想した。



 ヴェーチェル山で生まれたあと、目的もなく彷徨さまよった。

 そんなスニエークの前に現れたのは、武装した人間たち。


 この生き物で試そうと、誘うように片手を上げた。

 すぐに黒雲が立ち込め、雪が舞う。


 手のひらの雪に力を込めれば、氷の弾丸へと変化。容易く人間たちを貫いた。


 反撃を受け、スニエークの体が穿うがたれる。池に氷が張るように、風穴は瞬く間に塞がった。

 恐怖に顔を歪めながら、人間たちは絶命した。


 スノーカモフラージュの軍服が、血に染まる。死体が点在するさまは、花が咲いたよう。


「綺麗」と、スニエークは呟いた。


「……ひ、グレン……」

 吹雪の中、震える声が上がる。

 仲間の死体に寄りかかり、まだ生きている男がいた。


「あさひ、グレンツェン。……ごめんな」

 光沢のある紙──写真を見つめる青い目。


「怖くないの?」

 膝をつき、スニエークは首をかしげた。


「……怖いに決まってるさ」

 言葉とは裏腹に、口元には笑み。


「どうして笑うの?」


「あまりにも、突然だったからさ」


「面白いわね、あなた」


「まさか、雪女に会えるとはな。……笑い話にできないのが残念だ」

 男は、未練がましく天を仰ぐ。


 胸に抱く写真を、スニエークはつまみ上げた。

 写真に映るのは、今まさに死にゆく男と、黒髪の女と少年。


「でもよ……」と男が唸る。


「俺はやられたまま、黙っている男じゃないんだよ」

 続けて、カチカチと硬いものを打ち付ける音。


 男の手から上がる、小さな火柱。発煙筒だ。

 痛みに呻きながら、スニエークの腹部に叩き込む。


 めり込んだ発煙筒を握り潰し、スニエークは唖然とした。

 腹部は抉れ、雫が滴り落ちる。その上、空いた穴が塞がらない。


「火は効くんだな」

 ゆらりと、男が立ち上がった。


 両手には、火を噴く発煙筒。

 スニエークの肩と胸に突き刺すと、腹を蹴り飛ばした。


 そこで男の命は尽きる。大の字に転がり動かなくなった。


「あぁッ!」

 スニエークは、発煙筒を引きずり出した。膝をつき、滴り落ちる雫を手に受ける。


「これは、何?」

 体内でうごめく熱──痛みを知った瞬間だった。


 すぐに体が再生。湧き上がるのは、殺意と破壊衝動。

 手をかざすと、雪原から氷柱ひょうちゅうが伸びる。

 男の胸めがけ、振り下ろした。


 しかし、スニエークは寸前で止めた。

 男が胸に抱く、あの写真が目に入ったのだ。血まみれの写真が、風に揺れている。

 少し考えたあと、自ら氷柱を割った。


「……リッター・フランメル」

 男の懐を漁り、手帳の名前を読み上げる。


 この時、リッターの子が牙を向けてくるなど、考えもしなかった。


 ※


 凍結音に、スニエークは意識を戻す。ようやく、右腕が再生した。

 

 手のひらを拳へと変え、きびすを返す。しかし、すぐに立ち止まる。

 目の前には大勢の兵士。どの手にも小銃やショットガン。


「皇后様。いや、スニエーク。貴様に討伐命令が下された」

 将校らしき男が、蓄えたひげでつつ登場。


 スニエークは目を伏せ、失笑した。


「……やってみなさい」


 冷たい声を皮切りに、宮殿内に銃声が響き渡った。

第五章 挺身 完

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