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6-1.孤立(有)縁

 ヴォルクと勇利ゆうりの出会い。それは、シキが拉致された日。


 日没前に、ザフィーア市立病院の火災は鎮火した。

 三階と四階は焦げ、禍々しい雰囲気をまとっている。


 日付が変わっても、ヴォルクは帰らなかった。

 消防や警察、野次馬が去った頃──。背後に人影が立った。

 すぐさま、短剣を突きつける。


「さすが、あいつの忠犬だ」


「お前が『ユーリ』とやらか」

 合口拵あいくちこしらえが喉に触れるも、ヴォルクは動じない。


「シキはどこだ?」

 犬歯を見せ、鼻の頭にしわを作る。まさしく、威嚇する狼の形相。


「明後日には、ザミルザーニのハロードヌイにいるだろうさ」

 勇利は納刀すると、腕を組んだ。


「そのあとは首都行きだ。助け出せるとしたら、ハロードヌイが最後だろう」


「見え透いた罠だ」

 敵意がないと気付いたのか、ヴォルクも短剣をしまう。


「親切心から言っている」


「拉致っておきながら、助けろと?」


「……あれは、仕方がなかった」

 視線から逃れるように、勇利は目を伏せた。


「お前、何を企んでいる?」と、ヴォルクは一歩踏み出した。


 散々、この男にもてあそばれてきた。

 かといって、怒りに任せ殺すわけにもいかない。

 

「もう一度言う。ハロードヌイが最後のチャンスだ。雪狼せつろうのお前でも、首都までは到達できまい」


 どうやら、シキの関係者は調査済みらしい。

 顔色を変えることなく、ヴォルクは鼻を鳴らした。


「なるほどね。だから、俺に接触したのか」


「いいことを教えてやろう。今、お前の家族はハロードヌイにいる」

 

「……は?」と、ヴォルクは瞠目した。

 八つ裂きにしようかと、手の骨が鳴る。


「家族を人質にされた。……なんて早トチリするなよ」

 失笑すると、勇利は背を向けた。


「三日後に国境警備基地の南、針葉樹の森に来い。そこで会おう」


「待て」と、ヴォルクは呼び止めた。


「お前は何のために動いている?」


「……自分のためだ」

 覇気のない、か細い声。振り返ることなく、勇利は闇へ消えた。


 

 日が沈み、前後左右は闇。月明かりで目の前は見えるが、救いにはならない。

 

 ヴォルクに担がれたシキは、いまだ気絶中。

 怪我人を担いでの雪中行軍は、危険さと過酷さを極めた。


 雪に深くはまり、何度も足を止められる。

 獣化じゅうかが最適解だろうが、気絶状態のシキはしがみつけない。


 氷点下の闇を一歩、また一歩と進む。

 遭難している。という焦りを、必死に押さえつけて。 


 その時──。

 雪を踏む音が、ヴォルクの耳に飛び込んだ。

 軽快で間隔が短い。四足歩行の獣──狼の足音だ。


 連携して、狩りを行う狼だ。囲まれた時点で勝ち目はない。

 火があれば追い払えるかもしれないが、間に合わない。


 闇に慣れてきた黄色い目に、二頭の狼が映った。

 体を低くし、唸り声を上げている。下手に動けば飛びかかってくるだろう。


 一触即発、絶体絶命の場面。しかし、ヴォルクは破顔した。


「シィーラ、サヴィル」と、声を上げた。


 声を聞いた途端に、狼たちは目を丸くし、首をかしげる。

 しばらくして、野生味溢れる狼たちは「わおん」と吠えた。


「驚かせるなよ」

 ヴォルクは、濃灰色のうかいしょくの毛をでる。


「……ヴォルク、お前なのか?」

 木立の間から、男が現れた。手には狩猟用のライフル。


 フードを外し、ヴォルクは顔を見せた。

 男はランタンを掲げたあと、黄色い目を見開く。


「ただいま、父さん」

 安堵あんどした様子で、息子は目を伏せた。

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