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5-2.三つの邂逅

 復讐譚が始まり、五年が経った頃。

 除隊したエクレレを迎えに、勇利はアジュール共和国へと赴いた。

 

 そこで『心』に影響を与えた存在、エタンセルと会う。


「君、日輪人にちりんじんか?」

 エタンセルは、興味深そうに勇利を見た。


「あぁ。俺は『桑原くわはら 勇利ゆうり』。君は?」


「俺はエタンセル・ウト。俺の母親も日輪人だ」


 その言葉に、勇利は大層喜んだ。二人はすぐに意気投合。

 エタンセルは休暇のたびに、グロワール家を訪れた。


 しかし、勇利には全てわかっていた。

 自分との稽古を口実に、エクレレと会っていることに。

 密告も忠告もしなかったが、心に広がるのはむず痒い感情。


 そんな中、グロワール家当主が死去。

 男児がいないため、長女のエクレレが跡を継ぐ。

 同時に、雷の気象兵器も受け継いだ。


 ついに勇利は行動に出た。エクレレをめった打ちにし、気象兵器を強奪。


 その時、勇利は悟る。今まで燻っていた感情が、嫉妬だったということに。

 幼少期からともにいながら見向きもされず、エタンセルに奪われた。

 恋敵を無意識のうちに、エクレレに重ねていたのだ。


 力を奪ったとしても、屈服させなければ意味を成さない。

 その点、雷の気象兵器──ケラヴノ・オルニスが相手で幸運だった。


 ケラヴノは聡明な男だ。

 勇利をすぐに殺すことはせず、動機を聞いた上で協力した。


 こうして、表向きには『女帝の姪を殺しかけた』という大罪でレヒトシュタートを出た。



 『思想』に影響を与えた存在、サイファとの出会いは潜伏中の頃。

 

 伝説のスパイの首級を上げれば、裏社会でのステータスが跳ね上がる。

 五十を過ぎたサイファは不治の病を患い、殺すことは容易い。


 しかし、勇利はためらった。サイファは情報の宝庫、殺すには惜しい。

 気づけば、奇妙な共同生活を送っていた。


「皇帝が、妙な女を妻に迎えた」

 末期ガンだというのに、サイファは煙草をふかす。


「白い髪に水色の目。名前は『スニエーク』だったかな。あんな美人、どこで捕まえたんだか」


「……その女、化け物だ」と、勇利は呟く。

 反射的に出た言葉は、取り消すことはできない。


 覚悟を決め、全てをサイファに打ち明けた。

 自分が『ストランノスチ事件』の生き残りであること。

 両親の仇を討つために、罪を犯したことを。


「なるほどねぇ。帝国がおかしくなったのは、その女のせいか?」

 後頭部に手を当て、サイファは笑う。


「いや、帝国の異常さは昔からか。他国への干渉、破壊工作、暗殺に諜報。容認する政府は真っ黒だ」

 煙を吐き、淡々と続けた。


「死んだ皇帝は俺の幼馴染でな。過去を清算しようと頑張っていた。政府の老害どもを引きずり下ろすために、俺も暗躍していたってわけさ。……帝国どころか、世界も敵に回しちまったがな」

 薄汚れた床に灰を落とし、サイファはうつむく。


「帝国は一度壊して、ゼロから始めるべきなんだ。……お前に、俺の夢を託してもいいか?」

 どれだけの苦難を重ねようとも、サイファの目は濁っていない。


「……わかった」と、勇利は頷く。

 満身創痍ながらも祖国を思う嘆願を、断る理由はない。


「じゃあ、俺の首を持って行け。最初は、そう考えていたんだろう?」

 吸い殻を灰皿に放り、サイファは笑った。


「老いぼれは、若者の踏み台にならなきゃな」


 その日の晩──。

 酒を酌み交わしたあと、サイファは永遠の眠りについた。


 サイファの顔型を取ったのは、武功を知らしめるためではない。

 彼の分も生きるという、確固たる決意からだ。



 ザミルザーニの裏社会で、勇利はすぐに頭角を表した。

 『グロム』という名を与えられ、一目置かれる存在に。


 復讐を誓い十年が経った頃。ついに、その時が訪れる。

 『人生』に影響を与えた、宿敵との邂逅かいこうだ。


「お前がグロム?」

 蠱惑的こわくてきな声が、勇利──グロムの耳をでた。


 顔を上げた先には仇がいた。白い髪に水色の目の女。

 間違いない。あの日、ヴェーチェル山で見た姿。


 敵意がないことを表すため、合口拵あいくちこしらえは右手にある。

 すぐさま切り伏せたかったが、必死に理性を保った。


「お前、私と同じだな?」

 スニエークの手が、グロムへ伸びる。顎に触れた指先は氷のように冷たい。


「それも人間が、気象兵器を屈服させるとは」


 その時はまだ、グロムには言葉の意味がわからなかった。

 スニエークが純粋な気象兵器ではない。と知ったのは一年後。

 つまり、秘密を共有した今、自分を信頼している。


 ようやく、復讐譚と国家転覆が始まった。


 まずは、世界を動かすきっかけを作る。

 餌食となったのは『非武装中立国』であるクローネ公国。


 野心家のリーベンスをそそのかし、ビエール共和国と結託させる。

 大公の死去は追い風となり、あっという間に陥落した。


 同盟国も国連も動かないが、予想の範疇はんちゅうだ。

 そこで、勇利は『ジョーカー』を出した。


 エタンセル──シキの存在だ。

 勇利を追うために、風の気象兵器となっていた。

 一連の騒動に自身が関わっていると知れば、飛びつくだろう。


 サイファとして公女に接触し、IMOをおびき出した。

 勇利と対面したシキは、疑いもせず計画へ飛び込んだ。

 時には攻勢に転じ、ある時は劣勢を演じた。


 しかし、誤算が生じた。気象兵器としてシキは未覚醒。

 今のままでは、スニエークに勝てるわけがない。


 そこで、勇利は博打を打った。

 拉致した上で、スニエークと対面。

 怒りで覚醒させる。という無謀な賭けに出たのだ。


 目論見は半分成功し、半分は失敗した。

 だが、勇利は満足だった。

 シキを利用し叩きのめし、圧倒的な力の差を見せつけた。


 たとえ一瞬であろうと。

 好敵手を追い越せた優越感に、浸りながら自決した。

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