4-1.重なる解①
ハロードヌイ国境警備基地から、南へ十キロ。
粉雪の中、空間が歪む。転がり落ちるように、勇利とシキが飛び出した。
受け身を取れず落下したせいだろう。
「うっ」と、シキから呻き声。
「早く立て」
暇を与えず、腕を引っ張る勇利。
「いてぇ! 肩、怪我してるから!」
貫かれた肩と連結していたため、シキは激痛に悶えた。
「はぁ」と、勇利は手を離す。
懐から包帯を取り出すと、応急処置を始めた。
「……まさか、お前にかばわれるなんてな」
「死なれたら困るんだよ」
処置を静かに見守る、シキの目は鋭い。
「けど、褒めてやるよ。やっと『地脈』を開けるようになったな」
「地脈? 瞬間移動のことか?」
目の前が歪んだ瞬間を、シキは思い出した。
「あぁ。地球のあちこちに走る不可視の道だ。気象兵器はそいつを使って移動できる」
包帯の端を処理し、勇利は頷く。
「地脈を開けるようになって、気象兵器と呼べる」
「……お前、俺を試したのか?」
「そうだ、お前が未覚醒だったのは想定外。だから強引な手段を取った」
恨むなよ。と勇利は笑った。
「……己の惨めさに腹が立つ」
責めることはできず、シキはうつむいた。
「風は現象のきっかけに過ぎない。その上、利用されるだけ。……何のための力なんだ」
珍しく弱気な言葉だ。
「お前はバカか」と、勇利からため息。
「風はきっかけを作るだけじゃない。スニエークも言っていただろう。現象を活性化させると」
「活性化……?」
「例えば、さっきの炎。お前、どこかで炎の眷属に触れたな?」
「あっ」と、シキは顔を上げた。
暖炉から現れ、自身へ消えたトカゲを思い出す。
「お前の怒りに炎の眷属が呼応し、風によって巨大化した。あれが活性化だ」
あとはわかるな? そう言って、勇利は口角を上げた。
「……風は現象の根源。だから、他の気象兵器の眷属が見えるのか」
ついに、シキは答えに辿り着いた。
「早くに知っていれば、俺に負けることはなかった……かもな」
勇利は目を細め、天を仰ぐ。
「吹雪が収まった、すぐに追手が来る」
行くぞ。と差し出された手を前に、シキは戸惑った。
窮地を脱するには、この手を取る選択肢のみ。
今は勇利を頼るしかない。覚悟を決め、手を掴み立ち上がる。
「スニエークはどうなった?」
歩き出してすぐ、シキは口を開く。
「炎はかなり効いただろうが、死んではいない。氷の気象兵器は脆いが、再生速度と不死性がずば抜けている」
「あいつ、どうすれば仕留められる?」
心臓がある場所を貫こうとも、半身を欠損しようとも死なない。
肉体がなければ、殺す術がないのだ。
「『核』を取り出す」
「核?」
「いわゆる心臓、気象兵器の本体だ。普段は全身を循環しているが、戦闘状態になると一点に集中する。取り出すのは簡単じゃない。宿主を極限まで弱らせる必要がある」
「さっきの戦いで相当の痛手は与えただろう? 俺とお前で、あいつを倒そう」
「……そうだな」
勇利は目を伏せ、微笑を浮かべた。
どちらも満身創痍だ。歩くたびに血が落ち、雪上に赤い花が開く。
追手に辿られてしまうが隠す術はない。
足を引きずりながら歩く勇利に、シキは肩を貸した。
「お前のお人好しも、相変わらずだな」
「言ってろ、今だけだ」
軽口を叩き合う二人は、かつての友人同士に戻りつつあった。




