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3-2.覚醒

 気象兵器はそれぞれ、獣の姿を持つ。風は竜。炎は獅子。水は蛇。


 そして──。

 スニエークの足元には、氷でできた二頭の虎。

 勇利ゆうりの背から飛び立つは、雷をまとった鷹。


 表面化した力が、シキの目に映った。

 二つの力は、ぶつかり溶け合う。


 刹那──。

 落雷のような、雪崩なだれのような轟音。

 氷の虎は崩れ去り、雷の鷹は消え失せた。

  

 建物は崩壊寸前。あちこちに、割れた石材が降り注ぐ。

 

 かき消えた雪が、戻った頃──。

 ゼエゼエと息をし、勇利は膝をついた。


 両腕が消し飛んだスニエークは、床に這いつくばっている。

 すぐに雪が体を包み、再生を果たす。


「はっ、はははッ!」

 勝利を確信したのか、高笑いが上がった。


「まだやるか?」

 ヒールを脱ぎ捨て、スニエークは一歩、また一歩と勇利へ。


「当然だッ……!」

 合口拵あいくちこしらえを杖代わりに、勇利は立ち上がる。


 しかし、絡みついた氷に動きを封じられた。身を捩るも、喉にレイピアの切先が迫る。


「人間の分際で、互角にやり合ったのは褒めてやる」


「ここが氷点下じゃなければ、俺が勝っていた」

 窮地にもかかわらず、勇利は笑う。


「負け惜しみは無様だぞ? ……死ね」

 レイピアを持つ手を引き、スニエークは宣告した。


「勇利!」と叫び、シキは走る。


 体の痛みも、身を切るような寒さも、吹雪の音さえ聞こえない。

 突如、視界が歪む。が勇利は見える。

 届かないとわかっていても、手を伸ばす。


 レイピアが肉を貫き、パタリと血が落ちた。


「なっ……」と、勇利が目を剥いた。

 同様に、スニエークも驚愕の表情だ。


 黒目に映るは、煌めく銀髪。

 暴風にはためき、光を受け燦然さんぜんと輝く。 


 ここで、シキにかばわれたと気づいた。

 スニエークや勇利のように、一瞬で移動したのだ。

 

「シキ、お前──」

 紫色の唇がわずかに緩む。それは戸惑いと、歓喜が入り混じった笑み。


「死なせてたまるかよ……」と、シキは呟く。


「全て教えろ。……真実を」


 顔は見えないが、どんな表情かは察しがつく。

「あぁ」と、勇利は頷いた。


「……お前だけは許さない」

 シキの赤い目が、スニエークを捉える。


 体内で血が暴れている。沸騰するかと思うほど、体が熱い。

 震える左手が、自身の右肩へ伸びる。突き刺さるレイピアを掴み、へし折った。


 パキン。とはかない音。続いて、ゴッ。という重厚な音。


 貫かれた傷口から、強烈な炎が上がったのだ。

 滴り落ちていた血も、床に落ちた血も燃え上がる。さながら、怒りが具現化したような赤。


 立ち上る炎に、スニエークは飲み込まれた。


「ギャァァァッ!!」

 この世のものとは、思えぬ叫び。


 炎が消えたと同時に、スニエークも消えた。

 ボロボロの布切れ──マーメイドラインだったドレスが、風に揺れていた。


 しばらくして、勇利を封じていた氷が砕け散る。

 吹雪が弱まり、崩れた天井の先には鉛色の空。

 

 一瞬にして過ぎ去った光景に、シキ自身も驚いていた。

 天を仰ぐも、勇利に肩を掴まれる。


「逃げるぞ」

 勇利が手を掲げると、空間が割れた。


 数十秒後──。

 崩壊が始まった広間に、兵士たちが駆けつけた。しかし、すでに誰もいなかった。

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