2-2.導かれた答え②
それはいつか見た、白昼夢の続き。
ここは『風』の世界。終わりのない草原を走るは、初夏の薫風。
中心である東屋には、アネモスとシキ──グレンツェンがいた。
「覚悟はいいか?」
灰色のローブの袖を振り、アネモスは両手を組んだ。
「もちろん」
いつでも来い。とグレンツェンは顎を引く。
「言っておくが。力の使い方は、私からは教えない」
「……なぜ?」
話の腰を折る内容に、グレンツェンは愕然とした。
「私にも、選ぶ権利はあるのだよ。お前が『風』に相応しいかを見定める」
「はぁ……」
困惑した様子のグレンツェンに、アネモスは微笑んだ。
「心配はいらん。お前さんなら、すぐに理解できる。では──」
両腕を外側へ開くと、ローブが風に揺れた。
血管が浮き出た、年齢を感じさせる手。
グレンツェンへ伸びたと同時に、光が溢れた。
「動いてはならぬ」と、穏やかな声。
「グレンツェンよ。この先、あらゆる困難が待ち受けているだろう。だが、どんな時も──」
光はアネモスの全身へと移り、白く輝く。
「崇高であると同時に、謙虚さを忘れるな」
アネモスは、光の球体へと姿を変えた。吸い込まれるように、グレンツェンの胸へ。
「──うぅッ」
体になだれ込む巨大な質量に、グレンツェンは呻いた。
狭まる視界には、東屋の天井──。
そこから記憶はない。次に目を覚ました時は、病室だった。
グレンツェンは、鏡を見て驚いた。
銀髪に青い目。奇しくも、アネモスと同じ髪色に目の色だ。
変わったのは、髪色の変化だけではない。獣人以上の持久力、戦闘能力と反射神経。
さらに、不可視の存在が見えるようになった。
風に竜を。
雪に虎を。
炎に獅子を。
稲妻に鷹を。
水に蛇を。
それらは、自然現象が具現化した存在。
気象兵器は『眷属』と呼び、人は『精霊』と呼ぶ。
手を差し出せば、踊るように吸い付く。
だが、この時は気づきもしなかった。
全ての眷属は、風だけに従順。ということに。
※
回顧の海から、意識が浮上する。シキは、ゆっくりと目を開けた。
数回の瞬きのあと、暖炉を見た。勢いよく炎が揺れ、不規則に明暗する。
そんな時、赤熱した薪の中で『何か』が動いた。
やがて現れたのは、緋色のトカゲ。
炎の中級眷属。といったところだ。
もちろん、看守には見えていない。のそのそと歩き、独房に入ってきた。
おいで。と声には出さず、シキは床へ座る。伸ばされた手に、トカゲは乗った。
瞬間、泡が弾けるように消え去った。残ったのは、熱過ぎない人肌程度の温もり。
シキは、手のひらを拳へと変えた。
ここで立ち止まっている暇はない。という、決意に突き動かされる。
立ち上がると、看守がハミングを止めた。
「トイレか?」
「いや──」と、シキは首を振る。
その口元は、寂しげに笑っていた。
「ごめんな」
謝罪の言葉とともに──。
手枷が、一瞬で燃え上がった。




