2-1.導かれた答え①
赤熱した薪が弾ける音で、シキは目を覚ました。
激痛に顔をしかめつつ、手枷付きの両手を上げる。
ユーリの雷によって、ミミズ腫れがいくつも走っていた。
「いてぇ……」
時間をかけて、シキは起き上がる。気絶している間に、独房に戻されたらしい。
「生きてたか」と、看守は驚いた顔だ。
「てっきり、死んだかと思ったぞ」
「……あんたが、手当てをしてくれたのか?」
シキは、包帯が巻かれた首に手を伸ばす。しかし、手枷のせいで触れられない。
「あぁ。傷が開くから暴れるなよ」
「そいつはどうも」と、シキはベッドに寝転んだ。
「お前はなぜ、帝国に刃向かう?」
看守の問いかけに、眠りかけていたシキは目を開く。
「公世子を渡せば済む話だ。こんな目に遭うことはなかっただろう?」
「そいつは無理だ。……もう情が湧いちまった」
乾いた笑い声を上げ、シキは息を吸う。
「それに、この問題は俺にも関係大アリなんでね。……あんたらには悪いが、この国は潰さなきゃならない」
険悪な雰囲気が流れるかと思いきや、看守は失笑した。
「お前なら、やってくれるかもな」
「怒らないのか?」と、シキは首をかしげる。
「……スニエーク様が皇后になってから、この国はおかしくなった。最初は、皇帝陛下の崩御。冬は猛吹雪。冷夏のせいで、ろくに作物も育たない。誰も彼もが、腹を空かせている」
小銃を抱き、看守は身を乗り出した。
「……なぁ、あの方は何者なんだ?」
「……あれは人間じゃない」
『気象兵器』の単語は出さず、シキは答えた。
「やっぱりそうか。帝国は化け物に乗っ取られたんだな」
驚くことなく、看守は首を振る。
「あんた、今の話を聞かれたら殺されるぞ?」
「全部、承知の上だ。……俺たちには、紛い物の情報しか与えられない。だから、真実を知りたかったのさ」
告発してもいいぜ? と看守は笑った。
「……俺は、あんたたちは敵だと思っていた」
「そりゃ、とんだ思い違いだ。下っ端は上の命令で動くだけさ」
ラジオから民族音楽が流れ、看守はハミングを始めた。
気のいい看守との会話で、シキの精神は落ち着いた。
もちろん、目に諦めの色はない。起き上がり壁にもたれた。
一つ、気がかりなことがあった。奥歯に挟まり、取れないカスのような感覚が。
思考の海に潜るため、目を閉じた。脳裏に蘇るはユーリの声。
『お前は『風』だけしか使えないと、勘違いしているようだな?』
ザフィーア市立病院で、対峙した際の言葉。
『器がゴミ箱じゃ、力はただのゴミなんだよ。現象の根源である『風』は、お前には相応しくない』
数時間前の嘲笑。
いずれも罵倒だが、どこか導かれるような言葉。
──『風』とは?。
シキは、理科の教科書を思い浮かべた。
少年期はろくに勉強をしなかったが、大人になって学び直した。
風について理解を深めるため、何度も読んだページを思い出す。
大気とは風。水が流れると川になるように、大気が流れると風となる。
太陽熱によって動き、世界を循環する。
それらは偏西風、貿易風、季節風と呼ばれ、恵みと災いをもたらす。
風が起こす災害は、竜巻や暴風だけではない。
火災に嵐に高波、吹雪のきっかけとなる。つまり、自然現象の根底には風がいる。
シキは、思考の海から浮上した。
「そういうことか」と、銀髪をかきあげた。
目を閉じ、今度は回顧の海へ。
それは遠い昔──気象兵器になった日のこと。




