1-3.二人の仇
怒りに満ちた赤い目は、仇を捉えて離さない。
「その写真、どこで拾った!? どこで俺の名を知った!? 答えろ!!」
首に合口拵が当てられようとも、シキは怒鳴った。
「あなたの父が死に際に、愛おしそうに見つめていた。何度も、あなたの名を呼んでいた」
微笑むと、スニエークは写真をひらひらと振る。
「何で、父を殺した!?」
ブチン。とシキの理性が切れた。
刃がほんの一瞬だけ、首に掠る。それだけで薄い皮膚は裂け、血が滲んだ。
ちっ。とユーリから舌打ち。銀髪を掴み、床へ打ちつけた。
「黙れ」
冷ややかな声に、ギリリ。とシキは歯を鳴らす。
「力を試しただけなの。人間があんなに脆いなんて知らなかった」
痛そうね。と呟いたスニエークは、シキの頬に手を伸ばす。
リーベンスに殴られた際にできた、痣に触れた。
「ふざけたこと抜かすなよ。そんな理由で……」
シキは頭を振り、手から逃れた。
「あなたの父を殺したことは認める。運が悪かったわね」
「殺した側が言うことか!? 死んで詫びろ!」
「おい」とユーリは、シキの背を蹴飛ばした。
「口が過ぎるんじゃないか?」
さらに足を乗せ、貫くほどの重量をかける。
「この方は皇后様だぞ? その上、今はこの国の統治者だ」
「……は?」
背を丸め、耐えていたシキが目を剥いた。
「こいつが? 皇帝はどうした──」
言葉を紡ぐ途中で、何かを察したらしい。なるほど。と顔を上げた。
「こいつが殺したんだな? 帝国は気象兵器に乗っ取られていたわけか。……この化け物が」
「口のきき方に気をつけろ。と言ったはずだ。スニエーク様が化け物なら、俺もお前も化け物だ」
ユーリは、帯電した手刀を叩き込んだ。
「──うッ!」
あまりの衝撃に意識を失いかけるが、シキは歯を食いしばる。
「まさか、自分は化け物じゃないって思ってるのか?」
「……そうだ。力に溺れた奴が、化け物になるんだ」
「へぇ」
ユーリは笑い、シキの体を起こす。
「確かに、お前は化け物じゃない。だからといって気象兵器でもない」
シキの胸に人差し指を突きつけ、残念そうに言った。
「病院での戦いを思い出せ。あの程度で、俺に勝てると思っていたのか?」
嘲笑に、シキはぐっと喉を鳴らす。
「せっかく『風』の力を貰ったのになぁ? 器がゴミ箱じゃ、力はただのゴミなんだよ。現象の根源である『風』は、お前には相応しくない」
人差し指を離すと、ユーリは立ち上がった。
「即刻、この場で殺したいところだが。……チャンスをくれてやる。俺たちに下れ」
そう言って、シキの喉に切先を突きつけた。
「……は?」
「気象兵器が三人いれば、世界をどうにでもできる。面白そうじゃないか?」
「寝言は寝て言え。誰が仇と組むか」
ユーリを睨みつけ、シキは唸った。
「つまるところ『世界征服』だと? そんなふざけた理由で、お前は力を欲したのか? エクレレを半殺しにしてまで?」
体が痺れていなければ、ありったけの怒りをぶつけていただろう。
「そうだ。従者としてつまらない人生を過ごすより、ずっと刺激的だろ? ……あの傲慢な女は、殺し損ねたけどな」
拳を作り、ユーリは冷たい笑みを浮かべた。
「お前ッ……! グロワール家がいなきゃ、お前はとっくに──」
「あぁ、死んでいただろうな。だからといって、忠義を尽くす理由にはならない。俺には、そんな概念はない」
「お前──」
「もう黙れ」と、ユーリが遮る。
同時に、切先から電撃が走った。
「くっそ……」
体を震わせ、シキは床へ額をぶつけた。
「お前は、いつも綺麗事ばかり。聖人にでもなったつもりか? 説教を垂れるなら、俺より強くなってからにしろ」
ユーリは納刀すると、スニエークに振り返る。
「この男、獣並みに誇り高い生き物です。どうされますか?」
「どんな獣でも、檻に入れれば大人しくなるでしょう。時間をかけて調教しなさい」
柔らかくも冷徹な笑みを浮かべ、スニエークは歩き出す。
ヒールの音が遠ざかるにつれ、広間の寒気が和らいだ。
「承知しました」
主を見送り、ユーリは手刀を構えた。スパーク音とともに、閃光が走る。
後頭部に手刀を食らい、シキは容易く目を閉じた。




