章末 活路を求めて
淹れ直された紅茶を、エクレレはゆっくりと味わった。
「公女殿下。つらかっただろう」
優しい眼差しは、潤みを含んでいる。
「私は卑怯者です。兄を囮にして、自分だけ安全な場所で過ごした。それどころか関係のない人をっ……!」
落ち着いたはずの、レーヴェの感情が再び乱れた。
「レーヴェ」
いつまでも泣く妹の肩を、シュッツェが掴む。
「忘れろとは言わない。でも、いつまでも悔やむな」
口調は強いが、怒ってはいない。
「……俺も昨日の夜、人を殺した」
「え?」と、レーヴェの目が丸くなった。
「敵だとしても、人殺しに変わりはない。だけど、今は『戦争』の真っ只中。どんなことでもしなきゃいけない。その先にしか、未来はないんだ」
真剣な眼差しとともに、言葉に熱が入る。
「今は、自分の行いを正当化するしかない。全てが終わった時に、懺悔しよう」
「……うん」
いくつもの死線を潜り抜けた、兄の言葉。
レーヴェにとって、この上ない激励だったに違いない。
「耳が痛い話だ。俺も肝に命じなきゃな」
後頭部に手を当て、アウルは苦笑した。
「これで、点と点が繋がったな」と、拳を作る。
「『X』は『サイファ』だった。表に出なかったのは、世界的な犯罪者だったからか」
情報を整理するように、アインはゆっくりと言った。
「しっかし、サイファが生きていたとはな。世界中の殺し屋が奴を追っていた。仮に生きていたとしても、五十歳は超えてるぜ?」
アウルは腕を組み、顔をしかめた。
「それよりも。……瞬間移動って何?」
歯切れの悪そうに、シュッツェが呟く。
「わからない。急に目の前が歪んだの。足を一歩踏み出しただけなのに、城から国有林に移動して……」
困ったように、レーヴェはこめかみに手を当てた。
「なんじゃそりゃ? サイファって超能力者か?」
「んなわけないだろ」
すかさず、アウルが鼻で笑う。
「とにかく。サイファはあとだ」
咳払いを一つし、エクレレが割って入る。
これで、オカルト方面への脱線は免れた。
「あ、この話だけど──」
思いついたように、ヴォルクが声を上げた。
「シキと総司令も知ってるから」
「えぇ!?」
同じタイミングで、一同が叫ぶ。
「あ、文句は受け付けないよ。この話は、みだりに広がっちゃいけないから」
ヴォルクは、素早く予防線を張った。非難を封じ込めるのは、お手のもの。
「そのシキが拉致された。だからレーヴェを呼んだ」
「……尋問、あるいは拷問で、居場所を明かすかもしれないと?」
エクレレは、感情を押し殺した声だ。
「そう。少なくとも、竜人自治区にいるよりは安全でしょ?」
両手を組み、ヴォルクは「さて」と呟いた。
「これからどうする?」
現実に戻され、一同の顔が曇る。
「とにかく動こう」と、エクレレの鼓舞。
「ここは敵に知られただろう。すぐに別荘に移るといい」
女傑の頼もしい言葉に、面々の顔に生気が戻る。
「助かります」と、アウルは頭を下げた。
続いて、ヴォルクを見る。
「まずは、シキを救出する。話はそこからだ」
「同意見だ」と、ヴォルクは頷いた。
「必ず、無事に帰ってきてくれ」
エクレレの願いは、一同の願い。
「目の前の問題から潰していく。シキが言っていたようにね」
そう言って、ヴォルクは立ち上がった。
第四章 激動 完




