5-2.闇に注意
グロワール邸の灯りが、全て消えた頃──。
闇より、狩人たちがやってくる。
夜風とともに森を抜け、柵を音なく飛び越える。
狼の横顔を模ったエムブレムが、月光に煌めいた。
ピッキングによって、離れの扉は難なく開錠。
わずかに開けた隙間から、内部の様子を探る。異常なしと判断後、手のひらを前後へ振った。
「進め」の合図とともに、先遣隊が内部へ。階段や柱の裏、談話室の扉を開け死角を確認。
一人がクリア──OKサインを作った。
警戒しつつ、半数が二階へ。行き先は、標的たちが眠る部屋。
アイコンタクトを取ったあと、一人が手のひらを前後に振った。
扉を蹴破る音が、離れに響く。しかし、銃声や悲鳴は上がらない。
すぐさま、襲撃者は異変に気づく。毛布の中央は膨らんでいるが、起きる気配がないのだ。
早足でベッドまで寄り、毛布を剥がす。
そこには、簀巻きにされた別の毛布が転がっていた。
その時──。
真っ暗な部屋の、扉の影から何かが動く。伸びた銃口と、光る緑色の目。
襲撃者は振り返るも、すでに遅い。ゴリ。と額に銃口が当てられる。
消音器越しの小さな発砲音とともに、マズルフラッシュが閃いた。
眉間に空いた穴から、血と脳漿が飛び散る。
伐採された木の如く、襲撃者はベッドに倒れた。
物音に気づいた、隣室の仲間が動く。しかし、闇から伸びた腕に首を掴まれた。
数秒後には、死体となって廊下へと投げ出された。
突入した仲間たちが、一人も戻ってこない。
廊下で待機していた後続は、闇に銃口を向けた。不気味に広がる黒に、踏み込めずにいる。
「こっちだ、マヌケども」
どこからともなく、罵声が上がる。
廊下の最奥に、人が立っている。その手には短機関銃。
刹那──。
マズルフラッシュが稲妻のように閃き、乾いた銃声が轟いた、
次々と空薬莢が排出され、冷たい音を立て落ちる。
廊下には飛沫血痕が飛び散り、天井まで到達した。
手足と臓器を撃ち抜かれた襲撃者たちは、叫びを発することもできない。
短機関銃を肩に載せた、アウルから会心の笑み。
シュッツェ、アイン、ディア、ヴォルクが部屋から出た。
一階にいた別働隊が、一斉に二階へ。
階段を上がった先に待っていたのは、狼のような黄色い目。
「待ってたよ」と、ヴォルクが先頭を蹴飛ばした。
ドミノのように、襲撃者たちは転がり落ちる。ある者は、首を折って即死した。
騒音を皮切りに、戦いがついに動き出す。外で待機していた、第二陣がなだれ込む。
だが、形勢逆転とはいかない。
全員が、エントランスホールに入った瞬間──。
最後尾の後頭部に、銃口が当てられた。衝撃で体が押し出され、頭が爆ぜた。
背後を取ったのは、漆黒のガウンを纏うエクレレ。
反撃の隙を与えず、さらに発砲。
絶叫とともに、数人が崩れ落ちる。もちろん、一切の慈悲は与えない。
ヴォルクが首が裂き、アインとディアが淡々と仕留める。
シュッツェは、照明のスイッチに手を伸ばす。
いうまでもなく、血の海が広がっていた。
「どいてろ!」と、アウルが吠えた。
タタタン。と三点バーストを繰り出せば、確実に急所を貫く。
今の襲撃者たちは、屠られる運命を待つ生き物。
だが、暗殺者としての矜持は折れていない。
短剣を手にした生き残りが、公世子を襲う。
一矢報いなければ。と必死の形相だ。
「死んでたまるか」と、シュッツェは拳を構えた。
スウェーで躱し、渾身のストレートを叩き込む。
十五歳から始めたボクシングが、ここで役立つとは。
傍観者さえ、快感を覚えるほどのクリーンヒットだ。
不意に、銃声が止んだ。
目の前の光景には、死屍累々《ししるいるい》という言葉が相応しい。
「よくも、人様の家で暴れてくれたな」
腕を組み、エクレレは不機嫌そうだ。
あんたもノリノリだっただろう。とは言えず、一同はうつむく。
「まさか、こんなに早く来るとはね」
アウルは、くわえた煙草に火を点けた。
最大の障害であったシキを排除し、シュッツェを捕らえに来るだろう。
それが、一同が導き出した答え。
「生き残りは二人か。十分だな」
煙を吐き出し、悶絶する襲撃者を見た。
「居場所を吐かせるの?」と、ディアが問う。
「あぁ。どんな手を使ってもな」
猟奇的な光を目に宿し、アウルは笑った。
拷問。と即座に察したシュッツェは、震える手を組んだ。
「こいつらは必要ない」と、ヴォルクが割って入る。
「はぁ?」
当然、黙っている男ではない。煙草を指で挟み、アウルは詰め寄った。
「死体は『カラス』に処分させる」
「正気か? せっかく手に入れた情報源だぞ?」
「……シキの居場所は、俺が知ってる」
普段通りの能面顔で、ヴォルクは言った。
「おまっ……何言ってんの!?」
「どういうこと!?」
誰も彼も、不意を突かれた間抜けな面だ。次々と頓狂な声が上がる。
「静かに」と呟くヴォルクは、うんざりした様子。
「ちゃんと話すから。……長くなるよ」
そう言って、短剣に付いた血を拭った。




