表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/145

4-3.雌雄を決する時

 四階の病棟は、死体が重なっていた。

 壁には無数の弾痕が走り、飛沫血痕が彩りを添える。


 刺突を受け、蹴飛ばされる襲撃者。頭を踏まれ、喉を切先が貫いた。

 

 振った刀から、返り血が尾を引く。もう、シキ以外に立っている者はいない。

 銀髪は血にまみれ、金属的な輝きを放つ。

 顔の返り血を拭うと、涙の筋のように伸びた。


 赤い靴跡を残し、屋上へ。扉を開けたシキを日光が照らす。


 抑えきれない怒りをぶつけようと、血が沸騰するような感覚は鎮まらない。

 すぐにでも一太刀浴びせたい衝動に駆られる中、友だった男を呼ぶ。


「ユーリ」


「腕を上げたな。赤鬼みたいだ」

 鞘を肘掛け代わりに、ユーリは笑う。


「お前が暗殺集団の長か?」


「あぁ。出世しただろう?」


「どうして、ビエールやザミルザーニに加担する?」


「言ったところで、お前には理解できないよ」

 愚問だと、ユーリは失笑した。


 たもとを分かったつもりだった。

 もちろん、間違いであって欲しい。とも望んでいた。

 慈悲から生まれた葛藤かっとうも、今日で終わり。


「何を言っても無駄か。死んでもらう」

 決意と同時に、シキは刀を構えた。


「お手並み拝見といこうか」

 一歩踏み出し、ユーリは合口拵あいくちこしらえを抜く。


 切先を上げ、刀身をやや傾ける。喉への突きを予感させる、正眼せいがんの構え。


 シキは右足を引き、切先を斜め後方へ隠す。

 脇構えと呼ばれる、攻撃的な構えだ。


 周囲を包む、肌が裂かれるような緊張感。まず、ユーリが先手を打った。


 神速の切先が大気を貫く。同時に、シキも構えた刀を振った。

 短く凛とした金属音が、空へ吸い込まれる。


「なら、これは?」と、ユーリは笑う。

 喉への攻撃を諦めた代わりに、いくつもの突きを繰り出した。


 シキは瞬き一つしない。右へ左へ頭を動かし、切先をかわす。

 最後の突きをいなすと、ユーリの背に一太刀浴びせた。

 かと思われたが、空を切っただけだった。


 しかし、終わりではなかった。


「これはっ」と、ユーリの目が見開かれる。

 体全体を捻り『何か』を避けた。


 バコン。と背後で鈍い音。見えない『何か』が、給水塔の支柱を両断した。


「……風か」と、ユーリは頬に手を当てる。

 攻撃が掠ったのか、血が滲んでいた。


「目に見えない、飛ぶ斬撃か。やるな」


 風を操る、シキ特有の力。

 間合いを取ろうと、飛ぶ斬撃の前では意味を成さない。


 シキの周囲に渦巻くは、殺気が練り込まれた風。

 さながら、東洋に伝わる妖怪・鎌鼬かまいたちが取り憑いているようだ。


「なら、俺も見せてやろう」

 ユーリは大きく踏み出した。先ほどまでの緩慢な動きとは違う。


 シキに袈裟斬りが迫る。が反応できる速さだ。

 しかし、いなさず後退した。本当はつばで受けようとしたのだ。

 ユーリの刀が、白い光──雷を帯びるまでは。


 雷によって、合口拵が細かく震えている。

 生まれた高周波は、容易く万物を切断できるだろう。


「厄介だな」と、シキは息を吐く。


 斬撃を何度も受ければ、刀は折れてしまう。その上、感電のおそれもあった。


「どうする? 勝負がつかないと焼け死ぬぞ」

 煽るように、ユーリは両手を広げた。

 すぐ下まで炎が迫り、熱によって空気が揺れている。


「だから炎か。俺の力を封じるためだな」


 風は火を成長させる。すでに消防が到着しているだろう。

 消火活動を長引かせることは、あってはならない。


「違うな」

 ユーリは、みねを肩に当てた。


「お前は『風』だけしか使えないと、勘違いしているようだな?」


「何?」と、シキは眉をひそめる。


「まさか、わからないのか?」

 あり得ないという風に、ユーリは首を振った。


「もういい、興が醒めた。時間の無駄だったな」

 余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》だった顔から、笑みが消える。


 刹那──。

 ユーリの背後に、翼を広げた鷹が現れた。気象兵器の力が具現化したのだ。


「終わりだ」

 腰を落としたユーリが、姿を消した。


 どこだ。と構えるシキの腹部に、衝撃が走る。

 合口拵のつかが、鳩尾みぞおちにめり込んでいた。

 眼前には、金色の髪。


──嘘だろ。

 その言葉を、声にする余裕はない。


 一度は耐えるも、襲来した痛みに片膝をつく。

 死を悟るような激痛に競り負け、シキは意識を手放した。


「俺が切望した力は、そんなもんじゃないんだよ」

 気絶したシキを担ぎ上げ、ユーリは呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ