4-2.肉薄②
一瞬の静寂のあと──。
待合室は、戦場のような騒ぎに。
我先にと、人々が出入り口へ。数日前の悪夢が再来した。
「煙の臭いだ」と、ヴォルクは鼻を動かす。
二人は駐車場へと駆け、病院を見上げた。三階の窓から白煙。かなりの量だ。
「シキ! ヴォルク!」
騒ぎに気づいたのだろう。セアリアスが駆け寄ってきた。
次の瞬間、三階の窓から炎が上がった。
それだけで悲鳴が上がり、大混乱に陥る。
「これって……」
最悪の考えが頭をよぎり、ヴォルクが呟く。
「奴らだ」
煙を見上げたまま、シキは言った。
「早く逃げましょう!」
「今逃げても事故に遭いかねない。ここで待機だ」
ヴォルクの言葉に、セアリアスは冷静さを取り戻す。
その時──。
逃げる群衆に逆らい、シキが歩き出した。
「シキ?」
「あいつがいる。止めないと」
何かを見たのか、感じ取ったのか。瞬き一つせず、シキは屋上を見つめていた。
「ダメだ、罠かもしれない。ここは──」
行く手を阻むヴォルクだったが、口をつぐむ。
シキの青い目が、真っ赤に染まっていた。
感情が昂ると、気象兵器は目の色が変わるのだ。
「……戻ってきてよ」と、ヴォルクは道を開けた。
激昂状態になれば、止める術はない。
疾風の如く、シキは走る。職員の制止も聞かず、階段を駆け上がった。
三階は煙が立ち込めているが、なぜか火の気配がない。
煙の発生源は、病室を改造した物置。いくつものスモーク弾が、バケツに放り込まれていた。
一瞬だけ見えた炎は、火事だと錯覚させるため。
物置から飛び出すも、シキは動きを止めた。廊下の最奥に人影。一人や二人ではない。
煙の中から現れたのは、ガスマスクを被った襲撃者。不気味な呼吸音を上げ、手には拳銃。
刹那、マズルフラッシュが閃く。
しかし、シキの姿はすでにない。かと思えば、襲撃者たちの眼前へ。
神がかった速さで駆けたのだ。その手には、一振りの刀。
発砲を許さず、襲撃者の首を貫く。薙げば三つの首が飛び、血の海を転がる。
シキは構えた手刀を、斜めに振った。
生まれた風により、滞留していた煙が吹き飛ばされる。
病室から飛び出した襲撃者が、不意打ちを仕掛けた。
「邪魔だ!」とシキは飛び退き、手首を両断。
絶叫を許さず、脊髄を貫く。投げるように死体を置き、歩みを進めた。
階段の踊り場が、赤い光に包まれている。退路を断つために、本当の火が放たれたのだ。
前には、小銃を構える三人の襲撃者。顔は見えないが、明らかに動揺している。
一人が発砲するも、恐怖で制御できないのだろう。
反動を抑えきれず、銃口が上を向く。初弾を弾き返し、シキは壁を走った。
ガスマスクに映る、重力に逆らう獣──。
そこで一人は事切れた。
袈裟斬りを食らわせると、絵の具をぶちまけたように赤が飛び散る。
着地と同時に身を捻り、シキは弾を躱す。
発砲した襲撃者の横腹へ、斬撃を叩き込んだ。ガスマスクの中は、吐血の赤でいっぱいだ。
逃げようとする三人目の、腿に切先を突き立てた。
とどめを刺さず、炎の中へ蹴飛ばす。
もがきながら、下の階へと転がり落ちていった。
火は巨大な炎となり、壁を作っている。
この規模になってしまえば、風ではどうにもできない。
退路を断たれたシキは、上の階へと進むしかなかった。




