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3-3.切り札

 湯気が消え失せ、紅茶は冷たくなっていた。


「……お茶をれ直して参ります」

 人数分のカップを回収し、ニコラは退室した。


「皆、黙っててごめん」

 頭を下げ、シキは呟く。


 シュッツェは眉間を揉みほぐす。

「大丈夫」と、首を振った。


「気象兵器になった経緯は、エクレレさんのことに触れないといけない。話せなかったのも理解できるよ」


 同調するように、仲間たちも頷いた。


「ありがとう」と、シキは笑う。

 すぐに、神妙そうに手を組んだ。


「暗い話に戻る。……今、ユーリはビエール側の人間らしい」


「……つまり。暗殺未遂事件の首謀者は、ビエールやザミルザーニってことか」

 痛みに耐えるように、シュッツェは目を伏せた。


「セルキオの次は、レヒトシュタートに混乱を招くのか。しかも自分たちは手を下さない。狡猾こうかつな連中だ」

 呆れたように、アインは首を振る。


「おそらく、ザイデ人を犯人に仕立て上げるだろう。……女帝は報復に走るかもしれない。……最悪は戦争に」


 現実味のある推測に、一同は視線を落とす。助け舟を出したのは、エクレレだ。


「今回の件に関して『伯母をいさめるように』と、ベネディクトに伝えた。鎮静化できるかはわからないが」

 そこまで言うと、思案に耽る。


「伯母に真相を伝えたい。がユーリが絡んでいる以上、グロワール家の失態も話すことになる。……くそっ」

 粗暴な言葉とともに、肘掛けに拳を叩きつけた。


「お前の立場が悪くなるなら、言わなくていい」

 すかさず、シキが首を振る。


「それより、シュッツェの居所がバレたんじゃねぇか? また国民を煽動するかもよ?」

 苛立ちを隠さず、アウルは顎をさすった。


「大丈夫、対策を思いついた」と、シキの口調は明るい。

 待っていましたと、言わんばかりの笑顔。


「『亡命政府』を作ろう」



 後日、ビエール共和国──。


「レヒトシュタートのザフィーア市にて、シュッツェを発見しました」

 ユーリは、窓を眺める背に言った。


 ひげで、ビエール共和国宰相のヴィリーキィ・シーリウスは振り返る。


「ただ、セルキオの時ほど上手くはやれない」

 机に叩きつけたのは、一部の新聞。


『シュッツェ・ネイガウス、クローネ亡命政府の樹立を宣言』


「これは……」

 切れ長の目を見開き、ユーリは手を伸ばした。


「声明文を各国の新聞社に送ったらしい。その上──」

 ヴィリーキィの目が、鋭さを増す。


「息子が殺されかけたというのに、女帝は動く気配がない。暗殺が成功していれば、女帝はザイデに最後通牒さいごつうちょうを送っていただろうな」


「グロワール家が進言したのでしょう。あの当主は立ち回りが上手い。ですが──」

 新聞を机に放り、ユーリは歩く。


「もっと厄介な相手がいます。シュッツェ(キング)でも、エクレレ(クイーン)でもない。『ジョーカー』が」


「ジョーカーと例えるほどに厄介なのか? IMOという連中は」

 ピクリと、ヴィリーキィの眉が動く。


 宮廷道化師──ピエロ。あるいはジョーカーと呼ばれる。

 言葉選びで王を楽しませる一方、王を批判する者。


 憤慨しては、民衆からの支持が下がる。

 王は器の大きさを見せるため、罰を与えられない。

 ジョーカーがキングよりも、格上の所以ゆえんだ。


「隊員は結束力が強く、個々の能力が高い。……そして気象兵器がいます」


「お前の友だったか。運命とは皮肉なものだ」

 ヴィリーキィは椅子を回転させ、窓を見た。


 細かい雪が曇天から降り注ぐ。昼過ぎであっても外は薄暗い。


「私を殺すために、奴も力を手に入れたのです。……それも『風』の力を」

 ユーリが拳を作ると、革手袋がきしんだ。


「しかし、あの男は何もわかっていない。無知ゆえに弱い」


「シュッツェの手札から、ジョーカーを抜き取ることは可能か?」


「もちろん」と、ユーリは即答した。


「あの男は計画に必要不可欠。必ずや、手に入れて見せましょう」


「では、急ぎレヒトシュタートへ戻れ。一刻も早く、その男を連れてこい」


「承知しました」

 会釈をし、ユーリは新聞を見た。その口元には、冷ややかな笑み。


僭王せんおうの慌てる顔が、容易に想像できますね」

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