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2-1.女傑の依頼

 ポロプリズム式の双眼鏡に映る、無数の人。

 スピーチ用の壇上では、作業中のスタッフ。


 観衆の中には、ディアとヴォルク、アインがいた。

 閑散とした路地には、シキとジェネロ。


「はぁ」

 双眼鏡を下ろし、シュッツェはまぶたを押さえた。


「なんだ、もう疲れたのか?」

 ベッドで肘枕をつくアウルが、鼻で笑う。


 小馬鹿にするような体勢に、にやけた顔。

 シュッツェは、アッパーカットを叩き込みたくなった。


「主役、遅いなぁ」と、セアリアスも目をしばたかせる。


「アウル、変わってよ」


「俺には俺の、仕事があるの」

 そう言って、アウルは狙撃銃をでている。


『こちらジャガー。動きは?』

 無線機から、気の抜けた声が上がった。


「ない。引き続き待機せよ」

 この言葉も三回目だ。シュッツェは、くわえた菓子パンを引きちぎった。


『りょーかい』

 

 ブツリ。と音を立て、無線が切れた。



 事の発端はグロワール邸に拠点を移し、三日目の晩のこと。


「ベネディクト・ディアマント?」

 牛肉と野菜を煮込んだレヒトシュタートの家庭料理から顔を上げ、シキは首をかしげた。


「私のいとこで、伯母の三男だ。皇位継承権は三位だが、顔が良いから伯母のお気に入りだ。おそらく、次期皇帝はベネディクトだろう」

 殺されなければ。と呟くエクレレは、赤ワインのグラスを傾ける。


「で、いとこがどうかしたの?」


「困ったことに明日、ザフィーア市内にオープンするホテルのテープカットに来るんだ」

 エクレレは、大迷惑とでも言いたげだ。


「早い話、ベネディクトの警護を頼みたい。もちろん内密に」


「居候させてもらっているからいいけど、そんなに不安? 皇太子ってことは、たくさんの護衛がいるでしょ?」

 シキの問いに、エクレレはうつむいた。


「……『ザイデ』の名は知っているな?」


「ザイデ? 確か十年ぐらい前に、レヒトシュタートから独立した国だっけ?」

 テーブルを指で叩き、シキは『第一次ザイデ独立戦争』を思い出す。


 レヒトシュタート南部に多い、異民系のザイデ人による内乱。

 異民族の蜂起が連鎖すると危惧した女帝は、早々に独立を認めた。

 南部が切り離され、現在は『ザイデ共和国』として存在している。


「独立しただけじゃ飽き足らず、さらに領土を広げるつもりだ。国連が仲介に入ったが両者、聞く耳を持たない」


「天下のIMOでも、喧嘩は止められないな」


「ザイデはあの手この手で、帝国を陥れようとしている。もし溺愛する息子が殺されたら、伯母も黙ってはいないだろう」

 エクレレは、注がれたワインに手を伸ばす。


「それに、標的はベネディクトではないかもしれない。……私も招待されている。伯母の機嫌を取るために断れない」

 弱々しい言葉に、シキの眉が動く。


「なおさら断れないな。いいよ、手伝う」

 フォークから手を離し、快活に笑った。


「ありがとう。待機場所は手配しておく。他に必要な物は?」


「無線かな。支援役と連絡を取り合いたい」

 シキは、すっかり司令塔の顔つきだ。


「お安い御用だ、任せておけ」

 空になったグラスを置き、エクレレは大きく頷いた。

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