1-2.頼れる女傑
採光用の大きな窓が設られたリビングに、一行は案内された。
コーヒーが運ばれ、目の覚めるような香りが立ち込める。
「大体の経緯は、シキから聞いた」
ソファに座り、エクレレは足を組んだ。
ローテーブルの上には、シキからの手紙といくつもの新聞。
常々、クローネの問題に目を通していたらしい。
「その上で、匿うことに決めた」
「心から感謝します。……ですが、本当に大丈夫ですか?」
またとない申し出だが、シュッツェの声は低い。
「もし、このことが公になれば。……グロワール家は、その──」
没落するかもしれない。という言葉は、声には出さなかった。
「心配いらない」と、エクレレは一蹴。
「それに友の頼みだ。断るわけがないさ」
「巻き込んでしまって申し訳ない。迷惑をかける」
両膝に手を当て、シキは低頭した。シュッツェ同様、表情は暗い。
「迷惑だ。なんて思っていない。むしろ頼ってくれて嬉しいよ」
両目に弧を描き、エクレレはコーヒーを飲んだ。
「この件はグロワール家だけしか知らない。伯母には報告しないから、安心してくれ」
小さなため息とともに、シュッツェは目を閉じる。
言わずもがな、安堵の表情だ。
「伯母に事の顛末を話せば、事態は悪化する。……伯母は見返りを求める人間だ。ロクなことにはならない。クローネの統治権が、ビエールからレヒトシュタートへ移るだろう」
テーブルの一点を見つめる、エクレレの目は冷めていた。
「どうして、そこまで庇ってくれるのですか?」
怪訝そうに、シュッツェは疑問を口にした。
レヒトシュタートの貴族は、狡猾さと非情さで有名だ。
覇権争いに子供や孫さえも使う。
女子は国内外の王族へ嫁がせ、男子は王族の娘を娶る。
それが近親者であろうと関係はない。
領土だけではなく、血による繋がりで繁栄したのだ。
「私は、この国が嫌いなのさ」
冷ややかな声が、エクレレから上がった。
「身内同士で子供を作る悪習で、甥や姪は先天的な病気持ちばかり。『高貴な血』を残そうとした結果が、このザマだ」
息を吸ったあと、さらに続ける。
「その上、伯母の悪政のせいで異民族の独立が頻発している。この国は遠くない未来に分裂するだろう」
──時限爆弾。
それが、現在のレヒトシュタートの二つ名。
いつ爆発してもおかしくない。爆発すれば、その影響は計り知れない。
誰も彼もが、無言でうつむく。
暗い話を続けたことに気づいたらしい。
「心配無用」と、エクレレは首を振った。
「『ディアマントの分家』という肩書きは、ただのオマケだ。今は『貿易商のグロワール』。自分の身と家は守れる」
背筋を伸ばし、自信満々に言い切った。
「さて、疑問は解決したかな?」
「あ、はい!」
考えに耽っていたシュッツェは、慌てて頷いた。
結婚適齢期をとうに過ぎていそうだが、伴侶はいないのだろう。
豪胆な彼女に、釣り合う男はいないということか。
という、野暮なことを考えていた。
「それで、詳しい話を聞かせてくれ」
強気な光を目に宿し、エクレレは両手を組んだ。




