章末 遠い空の下で
「どうもー。『鳥特急』のハヤブサ便で、す……」
宛名から察するに、ここの家主はタダ者ではない。
そう感じていた配達員は改めて絶句した。
広大な森の中に豪邸が現れたのだ。
隅々まで手入れされた庭に、彫刻付きの噴水にプール。
おまけに、離れにテニスコートまである。
メッセンジャーバッグから取り出した手紙を、守衛に渡した。
母屋に着くまで、どのくらいかかるのだろう。
配達員はそんなことを考えつつ、走る背を見送る。
「ありがとうございます」
残った守衛に会釈し、配達員は開けた場所へ出た。
脱いだサンダルの鼻緒に紐を通し、首から下げる。
体をかがめ、両手を後ろへ伸ばす。一瞬だけ体が震えた。
両手が初列風切羽へと変化。
前腕と上腕は、次列風切羽に。
脚は三前趾足──ごく一般的な鳥の脚へと変わる。
配達員は、大きなハヤブサへと姿を変えた。
地を蹴り空へ。生まれた風により落葉が舞う。
一定の高度まで上がったあと、流星のように飛び去った。
バルコニーには一人の女。
華奢な背に、タキシード姿の老人が声をかけた。
十中八九、執事だろう。
「お手紙です」と、封筒を差し出す。
一礼ののち、足早に立ち去る。丁寧かつ無駄のない所作だ。
送り主の名を見るなり、唇からため息が漏れた。
フラップを開け、二つ折りの手紙を開く。
しばらくして、女は天を仰いだ。
「いよいよ。か……」
独り言とともに、踵を返す。
ローヒールの音が、遠ざかっていった。
第三章 抗戦 完




