5-2.さらなる返り討ち②
「警察?」
状況を悟り、シュッツェは喉を鳴らす。
一行が市庁舎へ入ったあと、扉が閉ざされた。
吹き抜けの二階からも、警官が小銃を構える。
完全に逃げ場がなくなった時、響くヒールの音。
この場には、似合わない高貴な音。
ゆっくりとした足取りで、階段を下りる女。
言われなければ、彼女が四十代後半だとは気づかないだろう。
「これはこれは。ヴィクトリア・モロー大臣」
ストレングスは、恭しく頭を下げた。
「お久しぶりね」
連邦司法・警察省大臣のヴィクトリア・モローは、切れ長の目を細める。
「それで、これは何の冗談かな? 大統領はどちらに?」
「ここにはいない」
「やっぱりな。おかしいと思ったんだよ」と、シキは呆れた様子だ。
「俺を捕まえて、ビエールに引き渡すつもりですか?」
たまらず、シュッツェは声を上げた。
「ビエールの策略でセルキオの民意が煽動されていると、お気づきにならないのですか?」
「もちろん知っています。だからといって、見過ごすわけにはいかない。外部からの干渉を受けるより、国内での問題が一番厄介なの」
「では、国民に説明をすればいいでしょう!」
我慢ならなくなったのか、アインが怒鳴る。
「セルキオはクローネの同盟国! 守るべき存在を敵に渡すなど、あるまじき行為だ! こんな不意打ち、外道過ぎるだろう!」
「真相を話したところで、何も変わりはしない!」
鋭い声が、モローから上がった。
「ビエールの背後に帝国がいる以上、国民の不安は拭えない。亡命に加担した。という口実で侵略されたとしたら? ……政府は一生、拭いきれない汚名を着る。『永世中立国』の概念が崩壊する」
次第に、口調が弱々しくなった。
「殿下。あなたには深く同情します。ですが、秩序を乱してはいけない」
揺るぎない信念と、涙を湛えた目。
シュッツェは、心に何かが刺さる感覚を覚えた。
じわじわと、蝕むように広がる。
「わかってるよ、そんなこと──」
モッズコートをしわがつくほど握りしめ、瞑目した。
ずっと思っていた。自分が消えれば、全てが終わると。
どれだけ己を奮い立たせようと、それが真実。
心の隅に追いやっては、何度も這い出てくる。
一人の警官が、シュッツェに歩み寄った。
取り出した手錠から鳴る、冷たい金属音。
しかし──。
その手を、シキが掴んだ。
さらに次の瞬間──。
警官は床に押し付けられた。体が叩きつけられる音が市庁舎内に響く。
シキは、ゆっくりと立ち上がる。まるで獣が起き上がるように。
「簡単には渡さない」
唸るさまは、さながら威嚇する獣。
「やり過ぎるなよ」
他人事のように、ストレングスは笑った。




