5-1.さらなる返り討ち①
三十分遅れで、シキ一行はレクタングル市に到着。
「ぶっ殺されるな」
腕時計を見て、アウルは苦々しそうに呟く。
「あ」と、シキが声を上げた。
エントランスホールに、赤毛の巨躯が見えたのだ。
「もしかして、もう終わったの?」
「残念だったな。俺が代わりに熱弁を振るってやった」
割れた顎をさすり、ストレングスは得意げだ。
「ちょっと、シュッツェに喋らせるんじゃなかったの」
「無駄だと判断した。連中は、IMOを非難することしか頭にない」
それより。とストレングスの目が動く。
「俺に言わなきゃいけないことが、あるんじゃないか?」
「あぁ。ここに来る途中で襲撃に遭った」
シキは飄々《ひょうひょう》と、淡々と返した。
「そこは謝罪だろ」と、シュッツェが突っ込む。
「手短に話せ」
この部下にして、この上司あり。
驚きや戸惑いも皆無に、ストレングスは問う。
「敵は車で襲ってきた。返り討ちにして撤退させた」
「返り討ちか。こっちも似たようなもんだ」
一連の応酬もとい、一方的な口撃を思い出したのだろう。
この上なく、ストレングスは愉快そうだ。
「さて、これから市庁舎に行くぞ」
「なんで?」
突飛過ぎる展開に、シキは首をかしげた。
「さっき、連邦政府の人間に声をかけられた。なんでも、市庁舎にルフェーブルが来ているらしい」
「へぇ。ようやく大統領のお出ましか」
どうする? とシキは、シュッツェを見た。
一度目の幸運は無惨にも崩れ去った。
二度目があるなど、もはや奇跡である。
どうやら、神はまだ見放してはいないらしい。
「行こう」と、シュッツェは即答した。
「……まぁ、そうなるよな」
シキは鼻の頭をかく。声の低さからして、乗り気ではなさそうだ。
「さっさと行くぞ」
言い終わらないうちに、ストレングスは駅へ歩き出す。
市庁舎前で集合。ということだろう。
「オヤジ」と、シキが引き留めた。
「嫌な予感がする」
シュッツェに聞こえないように、声を潜める。
「なら、尻尾を巻いて逃げるか? ここらで一度、ケリをつけておけ」
「……だな」
目を伏せ、シキは頷いた。
「何の話?」
ストレングスの背を見送りつつ、シュッツェは呟く。
「国連で、どんな応酬があったのか聞いただけ」
行こう。と手を叩き、シキは車へ。
アウルは煙草に火を点けるも、吸い終わらないうちに目的地に到着した。
古い建物が建ち並ぶ、旧市街の一角に市庁舎はあった。
掲揚された市章が風に揺れている。
市庁舎前には、ストレングスとディアがすでに到着していた。
「お前、二度もボスを待たせるとは。いい度胸だな」
ストレングスは、何とも理不尽な男だ。
「最初の遅刻は勘弁してよ」
恫喝口調もなんのその。シキは、ヘラヘラと笑う。
週末のため、市庁舎内は職員も市民もいない。
ストレングスの話によると、警備員が案内してくれるという。
時代を感じさせる古い木の扉。とはいっても、鉄板が入っているため重い。
シキを先頭に、一行は内部へと足を踏み入れた。
「はぁ……」
扉を開けるなり、シキはため息を吐いた。
目の前には、銃口を向ける男たち。
無論、襲撃者ではない。ベレー帽に制服、半長靴。
それは、規律の整った集団であることを意味していた。




