4-4.独壇場
──レクタングルとは。
国際連盟本部を筆頭に、多くの非営利団体が置かれる大都市。
セルキオ連邦は国内に国際的な機関を置き、各国の干渉を受けないよう立ち回ってきた。
したたかさと先見の明は、クローネ公国とは雲泥の差である。
──国際連盟本部とは。
柱梁建築を取り入れた白亜の建物。
近代的な意匠の中に、古代を感じる佇まい。
昼下がりの本部の廊下を、ストレングスが歩く。腹に響く重たい足音だ。
前には案内役の職員。追い立てられる獲物のように、背中を丸めている。
「何かあったのでしょうか?」
細身の時計に視線を落とし、ディアは顔を曇らせた。
「だろうな。気にするだけ無駄だ」
鼻を鳴らし、ストレングスは首を振る。
二人は『国際司法委員会』に案内された。
部屋には、五人の委員が集結している。
「国際傭兵組織、総司令官のフレイム・ストレングスと申します。本日はお時間を割いていただき、感謝いたします」
委員の顔を見回し、ストレングスは会釈した。
「エマ・ランベールです。……本来であれば、訪問前に連絡を入れるべきです。国際機関と名乗るのであれば、常識では?」
眼鏡を掛けた、いかにも冷徹そうな女が小言を放つ。
「これは失礼」と、ストレングスは笑った。
「偶然にも隣国におりましたもので。皆様の貴重なお時間を頂いているわけです。本題に入りましょう」
慇懃無礼を体現した口ぶりだ。
「急なご訪問ですので、全委員が集まることはできませんでした。今回は、私たちがお話を伺います」
「構いません。よろしくお願いします」
頭を下げるも、ストレングスはしたり顔。
最初から、全委員が集う審理会に出向くつもりはない。
世界的には非合法組織であるIMOを、口の上手い判事や法律家が貶すからだ。
審理日前に訪問すれば、口うるさい連中は減る。それがストレングスの企み。
「これより審理を始めます。今回の件に、IMOが介入した経緯を教えてください」
男の委員が口火を切った。
「クローネの同盟国が動かないからです。それ以外に理由はありません」
「では、私からの質問です。なぜ、IMOは面識のないクローネに協力を?」
ランベールの目が、懐疑的な光を宿す。
「急病人がいたとして、面識がなければ無視しますか?」
「それは──」
「『規模が違う』とでも言いたそうですな」
ランベールの言葉を遮り、ストレングスは笑う。
見開かれた黄色い目に、力がこもった。
「我々は、そんな枠にはまりません。一人だろうが国だろうが、救えるなら動きます」
「耳障りの良い言葉ですが、IMO含めベイツリーの近年の動向は目に余ります。途上国へ武器や兵を売り渡し、争いを悪化させている。あなた方は、立場の弱い国を利用しているに過ぎません」
ランベールは一歩も退かない。非常に弁の立つ判事だ。
「いやぁ。さすがは『世界の政府』だ。そこまでお見通しだとは」
一触即発と思われたが、ストレングスの反応は鈍い。
だが、黙っている男ではない。
「争いが平和的に解決できるなら、私はIMOを創立することはなかったでしょう。有史以前から人間は、揉め事が起きるたびに殺し合っていました」
そこまで言うと、ゆっくりと立ち上がる。
「平和的解決──対話で物事が、解決できなかった証では?」
委員たちの鋭い視線が集中した。しかし誰一人として、声を上げない。
「戦争で善悪を、正義を決めるあなた方『人間』のおかげで、IMOは生まれた。戦争を糧とする醜い存在がね」
ゴツ。とテーブルに拳を置き、ストレングスは唸った。
「異論があるなら、どうぞ仰ってください」
「総司令、失礼ですよ」
ようやくディアが声を上げた。あえて止めなかったのだろう。
「IMOを叩く前に、同族を叩くべきではありませんか? 話は以上です」
ストレングスは、とどめの言葉を口にした。
一方的に喋ったかと思えば、帰り支度を始める。滞在時間は、たったの十分ほど。
「あまり挑発しないでください」
髪留めの位置を直し、ディアはため息を吐く。
「俺が黙っていると思うか」
ストレングスは、かなり不機嫌そうだ。
「あのガキども。どこをほっつき歩いてやがる」
窓の外を見やり、のしのしと歩き出した。




