4-3.本領発揮
「アイン、シュッツェ。頭、下げてろ」
「急ブレーキに注意だ」
シキとアウルの低い声で、異変を感じたらしい。
アインも、懐から拳銃を取り出した。
その動作で何が起きようとしているのか、シュッツェは悟る。
後方を走る一台の車。追い越そうとしているのか、かなりのスピードだ。
後続車は車線をはみ出し、並走した。
シュッツェは刮目した。助手席に座る男が、拳銃を構えている。
同じタイミングで、アウルが急ブレーキを踏む。
車は、けたたましいスキール音を上げた。
「うわっ!」とシュッツェは、反動で前のめり。
前のシートにぶつかるまいと、必死にこらえた。
襲撃されている。と理解した瞬間、全身が粟立つ感覚に襲われる。
対向車が来たことで、襲撃者の車は車道へ戻る。
アウルが運転する車は、後続へと変わった。
前から狙われると、非常に厄介。
「やっべ。頼んだぜ」と、アウルは振り返る。
「わかった。並走してくれ」
アシストグリップから手を離し、シキは頷く。
「りょーかい」
アクセルを踏み込み、アウルは笑う。
エンジンが獣のような唸り声を上げ、法定速度を振り切った。
「何してるんだ!?」と、シュッツェは叫ぶ。
爆走する最中。シキが、ドアをわずかに開けたのだ。
車は速度をさらに上げ、襲撃者の車と並び、追い越した。
その瞬間──。
シキは、車外へ飛び出した。
シュッツェは、とっさに手を伸ばす。
無論、その手は届かない。向かい風でドアが勢いよく閉じた。
風をものともせず、シキは跳躍した。まるで無重力空間を漂うかのように。
それは一瞬のこと。シキの右手に、青い光が浮かぶ。
光は、抜身の刀へと姿を変えた。
襲撃者の車の屋根に、刃が突き立てられた。
その下は運転席。途端に車が減速する。
引き抜かれた刃は血まみれだ。刀は再度、光とともに消えた。
シキは重力に逆らうように、窓から運転席へ滑り込む。
すぐさま助手席の窓に、同乗者の顔が押し当てられた。
運転手が変わった車は、スピードを持ち直す。
ついてこい。とシキは、ハンドサインを送った。
「寄り道するぞ」と拳銃をしまい、アウルはサインに応える。
二台の車は山道へ。砂をすり潰す音を立て、奥へ進む。
やがて、開けた場所で停車した。
シキは、男を引きずり降ろした。
ボンネットに体を押し付け、アウルに引き継ぐ。
力のない左腕は折られたのだろう。男は苦悶の表情だ。
運転席を見ようと、シュッツェは首を伸ばす。
頭を串刺しにされるなど、死んだ男は予想できただろうか。
「見ない方がいい」と、シキが立ち塞がった。
「それじゃ、吐いてもらうか」
アウルは、男の後頭部に銃口を押し付けた。
「てめぇ。『リオート・ヴォルキィ』だろ」
「アウル。そいつはザミルザーニの人間だ」
腕を組み、シキは首を振る。
『不用意にちょっかい出すなよ』
続けて、ザミルザーニ語を発した。
『そもそも、手榴弾でも使えよ。一息に殺せただろうに。随分と回りくどい方法だな』
引き金に指を掛け、アウルは笑う。
『上からの指示だ。お前たちはまだ殺さない』
『へぇ、偉そうに。殺して山に捨てるか?』
『いや、生かしておこう』と、シキが動いた。
男の肩を掴み、ボンネットから引き剥がす。
口にタオルを押し込むと、アウルを見た。
『歯ァ食いしばれ』
ためらいもせず、アウルは発砲。
消音器によって、抑えられた銃声は空へ消えた。
ついでに、男の小さな呻き声も。
男の腿を弾が掠めた。裂かれたズボンから血が滲み出す。
わざと外したらしい。
もし撃ち抜かれていたなら、この出血量では済まない。
シュッツェはアインとともに、遠巻きに見つめるだけだった。
側から見れば、どちらが悪党かわからない。
車へ戻り、シキはロープを取り出した。
『邪魔するなって、上に伝えとけ』
男の大腿部にロープを巻き、応急処置を施す。
全ての武器を取り上げたあと、一同は車へ戻った。
後部座席に座るシキは、ため息を吐く。
殺気を感じ取り、シュッツェは何も言えなかった。
「リーベンスは、お前を生け捕りにするつもりらしい」
しばらく経って、シキは呟く。
「予定が狂った。オヤジ、怒るだろうな」
「理由を聞けば、腰を抜かすかもよ?」
興奮を鎮めるため、アウルは煙草をくわえた。
「それ見たことかって笑いそうだ」
頬が緩み、シキから殺気が消える。
何事もなかったかのように、談笑を始めた。




