4-2.本当の真実
運転席のアウルは、三本目の煙草に火を点けた。
換気のため、全ての窓は開いている。
「なんか退屈だな。話でも振ってくれ」
くわえた煙草を上下させ、暇そうな声だ。
「煙草、それで終わってくれるなら」
シキは、不快そうに鼻をつまむ。
「じゃあいいや」
「ふざけんなよ」
「喧嘩しないで」とシュッツェは、ため息を吐いた。
煙草の臭いも不快だが、窓から入る風が痛い。
かじかむ手を擦っていたが、あることを思い出す。
「……何?」
名前を呼ばれたことに、シキは気づく。
しかし、シュッツェの声は吹き荒ぶ風にかき消された。
「話がある! 窓を閉めてほしい!」
シュッツェは大声を出し、窓を指差した。
「煙草をしまえ! 話があるってよ!」
アウルの耳に顔を近づけ、シキはわざとらしく怒鳴る。
「うるせぇ!」と、アウルから舌打ち。
渋々、灰皿に煙草を押し込んだ。意外にもポイ捨てはしないらしい。
窓を閉めたことにより、騒音は和らいだ。
「あのさ。『X』について色々と考えたんだ」
冷え切った手を組み、シュッツェは語り始めた。
「『X』はなぜ、レーヴェの死体しか残さなかったのかな。かなり用心深い人物だ。自分の死体も用意して、死んだことにすればよかった」
そこまで言うと、歯の隙間から息を吸う。
「そうすればIMOはレーヴェの死を断定し、疑うことはなかった。……シキも気づいていただろ?」
機嫌を窺う犬のように、シュッツェは視線を上げる。
「あぁ」と、シキは頷いた。
「矛盾というか、計画の綻びで『X』はIMOに追及されることになった」
「まさか『X』は、わざと自分の存在を匂わせたのか?」
助手席のアインは、顎に手を当てる。
「そう。で、その理由なんだけど……」
シュッツェは、どこか言いにくそうだ。
これが真実なら、本当の真実が遠ざかることを心配していた。
「『X』の中途半端な計画で、たった半日でレーヴェ生存説が持ち上がった。今思うと展開が早すぎる。その理由は──」
大きく息を吸い、シュッツェは拳を固めた。
「俺が、再起不能にならないようにするためだ」
「……ほぉー」
アウルの感嘆詞が、騒音に吸い込まれる。
「なるほどねぇ。お前、なかなかの頭脳派だな」
嬉しそうに、シキは声を弾ませた。
「でも。それが当たっていたらレーヴェは……」
本当に死んでいるかもしれない。と弱々しく呟いた。
「答えを出すには早すぎるぜ」
サイドミラーを一瞥し、アウルは頭を振る。
結局、本当の真実──レーヴェの生死はわからないまま。
気を取り直し、シュッツェは窓の外を見た。
変わり映えのない景色が続く中、川が姿を現す。
川幅が広く流れが早い。
その証拠に、ホワイトウォーターが発生している。
川を横断する橋へ、車は向かう。
数台のトラックと高級車が、対向車線を走り抜けた。
晴天の下、順調に走っている。
あと三十分もあれば、レクタングル市に到着するだろう。
「おい、アウル」
不意に、シキが唸った。
「わかってる」と、アウルは口角を上げる。
左手でハンドルを操作し、懐に手を突っ込んだ。
右手には、自動式拳銃が握られていた。




