4-1.次の一手
襲撃から一夜。
運転を代わりながら、シキ一行はヴェルメル連邦共和国へ。
『IMOアリステラ大陸方面・ヴェルメル支部』に到着した頃には日が昇っていた。
だが、休む暇は与えられなかった。
置いて行かれたアウルが、鬼の形相で待っていたのだ。
「弁解なら聞いてやる」
アウルは眼光鋭く、シキの前に立つ。
「ヴォルクたちが襲撃されたけど、返り討ちにした。襲撃者はビエールに雇われたゴロツキたち。対処のため俺は呼ばれた。以上」
「なるほど」と、アウルは頷く。
単純かつ明快な答えに、納得したらしい。
「じゃあ、これは?」
しかし、すぐに声が低くなった。
テーブルに叩きつけられたのは、ヴェルメル新聞。
『クローネ公国の公世子、シュッツェ・ネイガウスの亡命に国際傭兵組織(IMO)が関与』
事情を知らない者にとっては、衝撃的な見出し。
「俺が新聞社に教えた」
あっけらかんと、シキは言う。
「は?」とアウルから、頓狂な声。
数秒ののち──。
テーブルを殴りつけ、ついに激昂した。シキに詰め寄り胸ぐらを掴む。
「何で、矢面に立つようなマネした? お前、置かれてる状況がわかんねぇのか? あぁ!?」
巻き舌で怒鳴る姿は、まさにゴロツキだ。
「シュッツェの亡命は、ビエールがわざと公表したんだ」
貫くような視線を、シキは真っ向から見据えた。
「何だと?」
驚いたアウルは、力を緩める。
「目的は市民の不安を煽ること。そうなれば、全ての元凶はシュッツェだと思い込み、追い出そうと躍起になるだろう」
「俺のせいで……?」と、シュッツェは頭を抱えた。
「シュッツェ。自分を責めるなよ」
心中を悟ったらしく、すかさずシキがたしなめる。
「話は戻るが、連中はIMOの存在に気づいている。さらなる混乱を狙い、いずれは公表するはずだ。だから先回りしてやった。……動かない同盟国の代わりにIMOが動いてやったって、揚げ足が取れるからな」
開き直るように言うと、襲来したIMO総司令官を見た。
「そうだろ? オヤジ」
「ふん。お前は本当に、悪知恵が回る」
素直に同意すればいいものを、ストレングスは鼻で笑った。
「それで、各国を黙らせたところでどうする? IMOの評判が悪くなるぞ?」
「今さらだろ」
「まぁな」
怒るかと思いきや、ストレングスは頷いた。
「おかげで、俺は国連本部に呼び出された。事実確認のためにな」
「あぁ、だから来てたの」
合点がいったように、シキは目を丸くする。
国際連盟。文字通り、各国が加盟する世界規模の組織。
セルキオのレクタングル市に本部を置く。
「で、お前らも来るか? というか来い」
ストレングスは一同──特に、シュッツェを見た。
「連中に経緯を話せ。うまくいけば同情を誘えるかもしれんぞ?」
「……確かに」とシュッツェは、顎に手を当てた。
同盟国──個々の国だと影響力は小さい。
その上、見て見ぬふりを通してしまうだろう。
国連を動かせれば、多くの国を味方にできる。
結果、ビエールやザミルザーニとも渡り合えるはずだ。
「そうだな」と、シキが割って入った。
「不利な状況を覆せるかも。文句の一つや二つ、言ってやれ」
「言いたいことなら山ほどある。……行こう」
決定打になったらしい。シュッツェは力強く頷いた。
「決まりだな。ここは俺とアウル、アインが同行する」
シキは車の鍵を取り出した。シャラリと、金属が擦れる音が上がる。
「車で行くのか?」
鍵をキャッチしたアウルは、首をかしげた。
「あぁ。鉄道の方が早いけど、雑踏の中は危険だからな」
すれ違いざまに刺されるかも。とシキは呟く。
「オヤジは鉄道で行くんだろ?」
「あぁ。車は狭い」
ストレングスは、険しい表情になった。
二メートルはある巨体なら、そう思うのも無理はない。
「……オヤジについて行ってくれるか?」
シキはディアを見る。見張っていてくれ。と声を潜めた。
「そうね」と、ディアは苦笑した。
慣れたやり取りなのか、戸惑う素ぶりはない。
「それじゃあ、十四時に国連本部に集合だ。……おっと」
踵を返すも、ストレングスは足を止めた。
「こいつを忘れていた」
そう言って、二枚の手帳をシキに投げた。
黒革に金色の文字で『隊員手帳』と印字されている。
「あぁ、出来上がったんだ」
シキは頷くと、シュッツェとアインに渡す。
「失くしたら……。命はないと思え」
脅し文句を吐き捨て、ストレングスは宿舎をあとにした。
「マリノア・シェパード。……犬かよ」
与えられた偽名に、シュッツェは力なく笑う。
「レオパ・ブリザード?」
名前の由来がわからないらしく、アインは首をかしげた。
「ひねりがないなぁ」と、シキは笑う。
しかし、すぐに真剣な顔つきになった。
「さて、どうなることやら」




