3-4.捨て駒
『森林公園駅』の改札に、シキが姿を現した。
予想よりも早く来たことに、ディアは安堵した。
待ち時間は、ある種の拷問だったに違いない。
乱闘から、すでに一時間以上が経過している。
車内で経緯を説明しつつ、山荘へ戻った。
「おかえり」
錆びた椅子に座る、ヴォルクが振り返る。
壁際には拘束した襲撃者たち。目隠しに加え、口にも布が押し込んである。
「追撃は?」と、ディアが広間を見回した。
「ない。手早く終わらせよう」
短剣をレザーカバーに包み、ヴォルクは首を振る。
「身元が割れる物は持っていなかった。軍人崩れか、腕に覚えのあるゴロツキってところだね」
「なぁ。今さら、ダンマリ決め込んでも遅いって。正直に話してよ?」
シキの口調は尋問とは程遠い。
「……新聞、読んだ?」と、ヴォルクが問う。
「あぁ。不安を与えて、セルキオを扇動する気だ。目的は、シュッツェを精神的に追い込むことだろう」
だけど。とシキは腕を組む。
「先にIMOが狙われた。しかも、シュッツェと別行動のお前たちが。……俺たちの存在を、連中はすでに知っている?」
「……まさかね」
ヴォルクは、おもむろに立ち上がる。
意識のある男の前に屈むと、口の布を取った。
「ねぇ。ビエールから頼まれたの?」
首筋に、ナイフが押し当てられるような声色だ。
答えによっては首を裂かれてしまう。男は怯えた様子で何度も頷いた。
「本当? ……もっと上──ザミルザーニからじゃないの?」
少しずつ、首を絞めるような言い方。
「……『リオート・ヴォルキィ』」
「違う!」と、男は即答した。
声が裏返り、ひどく動揺している。
獲物に飛びつくように、ヴォルクは肩を掴んだ。
「君、ザミルザーニ人でしょ? スラングでわかったよ。あの組織の名前ぐらい知ってるよね?」
「知らない! 本当に何も知らない……!」
「嘘が下手だね。軍人崩れだったら、奴らの『ニオイ』に気づくでしょ?」
図星だったらしく、男はうつむいた。
「……確か、帝国お抱えの暗殺組織だったか?」
置いてけぼりの、シキが声を上げる。
「そう。やっぱり復活していたんだ」
「なるほどねぇ。諜報と暗殺のプロが一枚噛んでるってことか」
腕組みを解くと、シキは辺りを見回した。
「じゃあ逃げた方がいいよね? どこかで見てるかも」
緊迫した状況だというのに、のんきな口調だ。
「逃げたって無駄。奴らとは真っ向から戦うしかない」
男の口に布を押し込み、ヴォルクは立ち上がる。
「俺たちを試している。だから、まずは雇った刺客を送り込んだ」
「嫌な連中だな。それで、こいつらはどう──」
言いかけたシキの言葉を、殴打の音が遮った。
ヴォルクが、意識のある男を気絶させたのだ。
「手を下すまでもない。どうせ始末される」
「……本当に、ただの捨て駒だな」
片目を閉じ、シキはため息を吐いた。
一行は山荘を出た。シキは、車の下に身を滑り込ませる。
さらにボンネットも開け、不審物がないか確認した。
「でもさ。あいつらが始末されたら、俺たちのせいになるんじゃない?」
何事もなく車が動き出し、シキは口を開く。
「IMOの存在が明るみになるな」
「だからシキを呼んだ。司令塔ならどうする?」
ヴォルクは、どこか挑戦的な口調だ。
「……もう大立ち回りにしよう。戦況が変わるかもしれない」
シキは窓の外を見た。その目が、何手先を読んでいるかはわからない。
「それより駅に向かってくれ。ジェネロに電話する」
「わかった」と、セアリアスはハンドルを回した。
再び、車は森林公園駅へ──。




