3-3.反撃の狼煙②
ディアは、セアリアスの肩を掴んだ。
シャンデリア側へと滑り込み、懐から拳銃を抜く。
隙間の向こう側──片方の男に発砲した。
見事、弾は男の肩を掠めた。セアリアスを残しディアは飛び出す。
目の前にはもう一人の男。
怒号とともに銃口が上がる。だが、火を噴くことはない。
ヴォルクの飛び蹴りによって、発砲は阻止された。
だらしなく涎を垂らし、一人目が倒れる。
着地後、ヴォルクは体を反転させた。
短剣が刺さる男の鳩尾に、裏拳を叩き込む。
体を痙攣させ、二人目も撃沈した。
「この女ァ!」
撃たれた男は、いまだ戦意は消えていない。
「しつこい!」と、ディアは叫ぶ。
怒りに任せ、男の肩を殴りつける。ちなみに撃たれた箇所だ。
情けない悲鳴が上がるも、攻撃の手は緩めない。
男の頭を抱え込み、膝蹴りを食らわせた。
「外!」
セアリアスの叫びとともに、窓ガラスが割れた。
追撃が来ることなど想定の範囲内。
一番に飛び込んだ痩躯の男に、ディアは発砲。
「ぎゃっ!」
撃たれた鳥のように、男は無様に落下する。
新たな襲撃者は、撃ち落とした男を除き四人。
「はっ」と、ヴォルクが笑う。
瞳孔が開いた黄色い目。握りしめた手の骨が嬉しそうに鳴った。
ナイフを持つ男の腕を掴み落とし、蹴りを見舞う。
広間に響く不快な骨折音。手刀を叩き込めば、一人目は終了。
続いて襲いかかるのは、並外れた巨漢。
しかし、体格差など人狼の前では関係ない。
胸ぐらを掴み、ヴォルクは易々と投げる。
これで終わりではない。もう一人の男を巨漢へぶつけた。
投げ飛ばされた男は、衝撃に耐えられなかったらしい。
転がったまま動かなくなった。
「クソが!」
タフな巨漢は、スラングを吐き立ち上がる。
「今だ!」と、セアリアスが発砲した。
しかし、弾は掠りもしない。機械いじりは得意だが戦闘はからっきし。
「ヤバいっ!」
激昂した巨漢が迫り、セアリアスは涙目だ。
万事休すか。と思いきや、仲間の窮地にもヴォルクは冷静。
巨漢めがけ、新たな男を投げ飛ばす。
さらに隙を与えず、部屋の隅から跳躍。
渾身の拳が、巨漢の顔にめり込む。歯を吹き飛ばし、ついに倒れた。
「殺してやる!」
最後に投げ飛ばされた男が、ディアに襲いかかる。
しかし、手負いの男など敵ではない。
手の甲で腕を弾き、そのまま顔をはたいてやる。簡単な護身術だ。
とどめに腹を蹴ると、男は白目を剥いた。
ヴォルクは、痩躯の男を室内へ引きずり込んだ。
「頼む、助けッ──」
戦意を失くした男の命乞いは、無視された。
手刀を叩き込まれ、言葉が途切れる。
拍子抜けするほど、あっけない結末。八人の刺客が十分ともたなかった。
しばらく経った頃。耳を澄ませていたヴォルクが、声を上げた。
「ロープ取ってきて。車にある」
「他に気配は?」
ディアは、レザーパンツの泥をはたく。
「ない」
その証拠に、セアリアスが戻ってきた。肩にはロープを担いでいる。
「パンクしてなかった?」
「大丈夫……」と頷く、セアリアスの顔色は悪い。
「二人は今すぐ、近くの駅まで行って。シキに電話して、ここに連れてきて」
襲撃者たちを手際よく縛り、ヴォルクは言う。
「迷っている暇はないわ。すぐに行きましょう」
セアリアスの背を押し、ディアは走った。
その腕には血が滲んでいる。
シャンデリアに滑り込んだ際に、擦り剥いたらしい。
「……とんでもないことに、なりましたね」
焦燥しきった顔で、セアリアスは車を発進させた。
「えぇ。まさか、私たちが狙われるなんて」
腕にハンカチを当て、ディアは呟いた。




