3-2.反撃の狼煙①
「あれ? ディアさん、デザートはいらないんですか?」
セアリアスは、カフェラテを飲む手を止めた。
「えぇ。お腹いっぱい」と、ディアは微笑む。
昼時のカフェは、店内もテラス席も満員。
時折、客の会話が耳に入る。いずれも亡命の話ばかりだ。
気が気でない二人は、やっとの思いでランチを食べた。
だが、一人だけは平常運転。
「お待たせしました。キシュトルテです」と店員。
ヴォルクの前にデザートを置いた。
スポンジ生地をメレンゲに挟んだケーキ。
さっくりした歯応えと、香り立つリキュールは大人の味だ。
ヴォルクのランチ代は誰よりも高額。無論、会計時にディアが嘆く。
テラス席に降り注ぐ、穏やかな陽光。
少しだけ日向ぼっこをしたあと、店を出た。
「ここまで運転して」
乗車したヴォルクは、セアリアスに地図を見せた。
目的地はミリュー市郊外の森。
国道へ入ると、なだらかな坂が続く。いつしか、市街地は眼下へと広がった。
だいぶ、高度のある場所へ上がってきたらしい。
車は舗装されていない、砂利道へと進入した。
蔦が絡みつく石垣や苔むした門。いずれも不気味さを覚える。
降車した三人は、朽ちた山荘を見上げた。
かつては金持ちが所有していたのだろう。
廃墟となった山荘には人ではない、何かが棲んでいそうだ。
ヴォルクを先頭に内部へ。吹き込んだ風がディアの首筋を撫でる。
ヒヤッとしたのは冷気か、別の何かの仕業か──。
エントランスホールの床は大理石。
本来であれば、眩しいくらいに輝いていたはず。
今や、堆積した泥が大部分を覆っている。
ホールの先にある扉を、ヴォルクは軽く押した。
キィ。と軋む音を立て、簡単に開く。
大広間が三人を出迎えた。中央には固定部分が朽ち、落下したシャンデリア。
大部分が破損し、無惨に佇んでいる。
「……来るよ」とヴォルクが、不意に口を開いた。
言葉通り、広間の入口に三人の男。
どの体も筋肉質で目出し帽を被っている。廃墟巡りに来た人間ではない。
『尾行されている。返り討ちにして尋問する』
数時間前、ホテルでヴォルクはそう告げた。
一網打尽にするために、山荘へ誘導したのだ。
「シュッツェはどこだ」
一人の男が、拳銃を構えた。
「ここにはいないよ」
上着のポケットに手を突っ込んだまま、ヴォルクは首を振る。
「さっさと答えろ!」
「ヴォルク、ヤバいって……!」
恫喝口調に、セアリアスは身を小さくした。
「捕まえて吐かせてみなよ」
大きな犬歯を見せ、ヴォルクは笑う。それは戦闘時だけに見せる表情。
一陣の風が、ディアの頬を撫でた。
刹那──。
拳銃を構えていた男が、膝から崩れ落ちる。
腿に突き刺さる短剣。代わりに、ヴォルクの手がポケットから出ている。
戦闘の火蓋が切って落とされた。




