表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/145

3-1.追撃の狼煙

 半日前、ミリュー市のアパートにて。


「短い間でしたが、お世話になりました」

 鍵を差し出し、セアリアスは微笑ほほえむ。


 本人は住んでいないが部屋の契約者として、退去の挨拶に訪れたのだ。

 住人の顔を把握していないのか、大家が怪しむことはなかった。


「こんなボロいアパートですまないねぇ。不便とかなかった? ……あっ」

 しまった。と大家は、口に手を当てた。


「ボロいなんて言ったら、オーナーに怒られちゃうねぇ。おじさん、雇われ大家なんだよ」

 ねっとりとした口調だが、人は良さそうだ。


 オーナーとはIMO総司令官──ストレングスのこと。

 ストレングスはIMO名義で貸す物件と、他人を介し貸す物件を所有している。


 境界線は至って単純。IMOの存在を、その国が認めているかいなか。

 傭兵に対し、批判的なセルキオは後者だった。


「それより知ってるかい? セルキオに、クローネからの亡命者がいるって話だよ」


「え?」

 立ち去ろうとしたセアリアスは、目を丸くする。


「しかも、追手がいるかもしれないんだよ? 追手って、殺し屋とかだよねぇ?」

 大家は、眉間にしわを寄せた。


「俺たちには、関係ないと思っていたんだけどねぇ。こんなことになったら、不安で眠れないよ」


 大家の言葉に違和感を感じたらしい。セアリアスは首をかしげた。


「……クローネとセルキオは同盟国ですよね? 確か、安全保障条約を交わしているとか」 


「あんなの、国が勝手に決めたことでしょ? そもそも、何でセルキオに逃げ込むんだろうねぇ? 早く捕まえてくれないかなぁ」


「捕まえるって、亡命者を?」


「そうだよ。そのうち、俺たちに被害が出るかもしれない。クローネなんて国、なくなったって問題ないでしょ」


 セアリアスは閉口した。聞き捨てならない言葉に拳を固める。


「……そうですね」

 反論しても怪しまれるだけだ。と怒りを鎮めた。


「では、失礼します」

 早足で路地を抜け、市道に出た。路肩にはセアリアスを待つ車。


「滞りなかった?」と運転席のディアが、片手を上げた。


「はい。……実は、まずいことが──」

 セアリアスは重たい口を開き、事の顛末を話した。


「そんな事態になっているの? とにかく、ヴォルクに知らせなきゃ」

 ディアはアクセルを踏み、車を発進させた。


 ホテルに戻ると、ロビーにはヴォルクがいた。その手には新聞。

 二人の姿を認めると、天井を指差した。

 詳しくは部屋で話そう。という合図だ。


「ビエールが発表したらしい。メンツのために、伏せておくと思っていたけど」

 ベッドに新聞を放り、ヴォルクは窓辺に寄りかかる。


「二人を待っている間、散歩に出たんだ。もう亡命者捜しが始まっている」


「それは僕も感じた。街全体が色めき立っている感じ?」

 

「そうだろうね。約十三万人のミリュー市民が、この記事を見たはず。……情報はすぐに行き渡り、姿を変える」

 ヴォルクは、眼下の市街地を見た。


「そういうことか」と、セアリアスはうつむく。


「シュッツェは、セルキオにとって災いの火種。……民衆の不安を煽り、悪者に仕立て上げるつもりだ」


「ひどい。彼は国を追われた立場なのに」

 呆れたように、ディアは首を振った。


「ビエールは意外と手強いかもね。……セア。フロントから、ジェネロがいるホテルに電話して。『絶対にミリューに来るな』って伝えておいて」

 ヴォルクは、電話番号が書かれたメモを差し出す。


「わかった」


「で、これからどうする? シキと合流する?」

 腰に手を当て、ディアは問う。


「チェックアウトして、早めの昼ご飯を食べよう」

 ヴォルクは時計を見た。時刻は午前十時を過ぎている。


「そうね。じゃあ、荷物をまとめてくる」


「ただし──」


 ドアノブを掴んだディアは、その声に振り返った。


「ただの散歩じゃないから」

 無表情は相変わらず。

 しかし、ヴォルクの黄色い目は、獲物を捉えたように鋭かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ